神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

聞きたいことは、もっともっと、山のようにあった。

しかし。

「ジュリス・レティーナが戻ってきたのなら、俺はもう必要なかろう」

と言って、クロティルダは立ち上がった。

「…!帰っちゃうの?」

「あぁ。一度、上に戻る」

…上。

つまり、あんたらの住んでる天界のことだよな?

「…もう帰ってこないの?」

「そんなことはない。折を見て、また戻って来る」

いや、もう戻ってこなくて良いよ。

永久に天界に帰っててくれ。

俺の精神衛生の為に。

「では、さらばだ」

「ばいばい、クロティルダ。ばいばーい」

ベリクリーデがひらひらと手を振ると、クロティルダは、まるで手品でもしたみたいに。

その場から、ぱっと姿を消した。

…消えやがった。
 
「クロティルダ、帰っちゃったね」

ベリクリーデは、上を見つめながらそう言った。

「…」

「でも、ジュリスが帰ってきてくれたから、嬉しい」

にっこにこのベリクリーデ。

「あのね、見て欲しいものがいっぱいあるんだよ。クロティルダと一緒にね、松ぼっくりでクリスマスリースを作って、冥界に行って貝殻とか拾ってきて…」

俺は、思わず耳を疑った。

「…冥界…!?」

「ふぇ?」

お前、今、冥界って言った?

「お前、冥界に行ったのか?いつ?誰と!?」

「ふぇっ?ジュリスがいない間に。クロティルダと」

何だと…!?

こ、の、馬鹿…!

俺がいない間、大人しくしてると思ったら…。

「クロティルダが一緒に行こーって言ったから」

あいつが元凶かよ。

さっき、一発殴っておいてやれば良かった。ムカつくから。

…え?天使を殴るなんて罰当たり?

知ったことか。やっぱり殴れば良かった。ムカつくから。

「馬鹿っ…!知らない人についていったら駄目って、あれほど言っただろ!」

「だって、クロティルダは知らない人じゃないもん」

お馬鹿。

知ってる人ならついていっても良いよ、って意味じゃないんだよ!

無事に帰ってきたから良いものを。

あのクロティルダが少しその気になれば、今頃ベリクリーデは、冥界に置き去りにされていてもおかしくなかったのだ。

一人、冥界の荒廃した大地に取り残されるベリクリーデの姿を想像して。

俺は、思わず背筋が凍るような思いになった。

…そうだというのに、こいつは。

「一体何をしに行ったんだよ…!?」

「クリスマスリースの材料、探しに行ったの」

「…!?」

「見て見てー、ジュリス。凄くお洒落なんだよ。クロティルダが、綺麗なものいっぱい教えてくれて…」

「…なん…」

「冥界で、美味しいものも食べたんだよ」

「…何を?」

「えーとねー、確か…ドブネズミ!」 

満面笑みで答えるベリクリーデ。

「…」

…駄目だ。…頭痛くなってきた。