神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…ズシンズシンと進む、俺の背後で。

「やべっ…。シュニィ、逃げるぞ!」

「え、えぇっ…そんな…」

「馬鹿。世の中には、関わらない方が良いことってもんがあるんだよ!」

キュレムが、シュニィを引き摺るようにして退散していった。

今度こそ、本当に逃げた。
 
しかし、俺はそんなこと、まったく眼中になかった。

俺の両目は、その男に釘付けだった。

図々しくも、馴れ馴れしくも、ベリクリーデに寄り添って。

手作りの花冠なんてものを、ベリクリーデにプレゼントしている。

…ふざけやがって。

俺がいない間に。何処の馬の骨だ。

しかも、無駄に長身でイケメンなのが腹立つ。

これまで何人もの女を引っ掛けてきたかのような顔だよ。これは。

「…おい」

我ながら、めちゃくちゃ低い声だった。

俺が声を掛けると、ベリクリーデがはっ、としてこちらを向いた。

「…!ジュリスだ」

ひょこっ、と立ち上がって。

「わーい。ジュリスがいる。おかえりー!」

「お、おぉ…。ただいま…」

「お土産。ジュリス、お土産ちょーだい」

こら。お行儀悪い。

そりゃまぁ、お土産も渡すけども。

ベリクリーデがあまりにも、いつも通りのベリクリーデで。

ついうっかり、ほだされてしまいそうになったが。

そうは行かんぞ。

「…お前、誰だよ?」

俺は、ベンチに優雅に腰掛けているその男に向かって聞いた。

初対面なのに、挨拶も何もなく、「お前誰だよ?」とは。

我ながら礼儀を欠いているにも程があるが。

そんなことさえ、今の俺にはどうでも良いことだった。

すると。

「…ほぇ?」

ベリクリーデは、てっきり自分に聞かれたのだと勘違いしたらしく。

みるみるうちに、泣きそうな表情になった。

「ジュリスが…また、私のこと忘れちゃった…」

「…は?」

「一週間会わなかっただけなのに…。ジュリスに忘れられちゃった…」

ちょ、待て。どういう勘違いだよ?

「違う、ベリクリーデ。お前じゃない」

今の質問はお前じゃなくて、その隣に座ってる、その澄まし顔の男に聞いてんだよ。

「ベリクリーデのことは覚えてるよ。当たり前だろ」

「…ほんと?覚えてる?知ってる?」

「…知ってるよ…」

お前みたいな手のかかるヤツ、『ムシ』に侵されでもしない限り、忘れる訳ないだろ。

忘れようと思っても忘れられねぇよ。

「良かった。ジュリスが覚えててくれるって。ねぇ、クロティルダ」

「そうか。良かったな」

おい。何でそいつに同意を求めるんだよ。

ってかそいつ、クロティルダって名前なんだな。そうなんだな?

畜生…。無駄に豪華そうな名前しやがって。

余計、腹が立ってきた。