神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

二人の最強の元暗殺者を味方につけたイレースは。

容赦なく、その部屋の鍵を開けた。

薄暗がりの中に、古ぼけた棚や段ボール箱が敷き詰められた部屋。

ここは、倉庫である。

イーニシュフェルト魔導学院の、倉庫。

イレースは何枚もの巨大なゴミ袋を手に、その倉庫に立ち入った。

何の為に、って?

…そりゃ決まってるだろ。掃除の為だ。

「今日という今日は、もう堪忍袋の緒が切れました」

イレースは、こめかみに血管をピキピキさせながら言った。

「見てご覧なさい、この倉庫の有り様を。見渡す限りのゴミ、ゴミ、ゴミ…」

「ひぇっ…」

イレース、般若の形相。

「お陰で、必要書類を保管する場所にも事欠く有り様。徹底的にゴミを処分し、今後は私の管理下で、必要なものだけを保管します」

…だ、そうだ。

その為に令月とすぐりを買収し、お供にして。

こうして、倉庫に立ち入ったのだが。

「ゴミじゃないもん!必要なものしか置いてないもん!」

この倉庫の溢れ返る書類の山…イレースに言わせればゴミ…を、ここまで溜め込んだ張本人のシルナは。

きっぱりとそう言い張って、全てを捨てようとするイレースに断固反対していた。

…小学生かな?

しかし、イレースは相変わらず、容赦なかった。

ズシンズシンと倉庫に踏み入り、まずは手近にあった段ボール箱をひっくり返した。

ドサドサと、床に落ちる紙の束。

「あぁっ!イレースちゃん酷い!」

「何です、この紙切れは」

出てきたのは、経年劣化の為、朽ちてパリパリになった花柄の包装紙。

「それはね、それはね。昔買ったチョコケーキの包装紙。綺麗だったから取っておこうと思っ、」

「ゴミです」

「あぁっ!」

容赦なく、ゴミ袋にイン。

「この紐は何です」

次にイレースが手に取ったのは、端っこがほつれてしまった赤いリボン。

「それは、20年くらい前に食べたクリスマスケーキの箱についてたリボンだよ。お洒落だったから取っておこうと思っ、」

「捨てなさい」

「あぁっ!」

またしても、ゴミ袋にイン。

「この缶は何です」

次にイレースが手に取ったのは、クッキー缶だった。

まさか、まだクッキーが入っているのかと思いきや。

開けてみると、出てきたのは小さな手のひら大の紙切れ。がいっぱい。

「それはね、チョコを包んでた包み紙がちょっと変わっててお洒落だったから、クッキー缶に入れて保管しておこうと思っ、」

「まとめて全部捨てなさい」

「あぁっ!」

クッキー缶ごと、まとめてゴミ袋にイン。

ドサドサと、あっという間に増えていくゴミ袋の中身。

…シルナのヤツ。

こんなものまで溜め込んでたのか…。

普段から、ケーキやクッキーや、お気に入りのチョコレートを食べる度に。

「ねぇ羽久、この包装紙お洒落だね。取っておこーっと」とか言って、こっそり保管しているのを見たことがあるが。

そういうのは、数日したら捨ててるものだと思っていた。

まさか、年単位で倉庫に保管していたとは。

…捨てろよ。