神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

…その時だった。

突然、「ぐぉぉぉ」とか、「ぐしゃぁぁぁ」みたいな叫び声がこだました。

「ほぇっ」

びっくりした。

今、凄く良い雰囲気だったのに。

誰?邪魔をしたの。

「…何?」

叫び声だけじゃなくて、何処からか、ドンドンという音もする。

しかも、その音が段々と、こちらに近づいてくるような…。

「…やれやれ。早速嗅ぎ付けたか」

と、クロティルダ。

「嗅ぎ付けた?…何を?」

「罪の成れの果て達だ。…見てみろ」

クロティルダの指差す方向を見ると。

のっぺらぼうで、顔中にツギハギの皮膚がジッパーみたいにくっついた、おっきなクマみたいな巨人が。

四つ脚で、こちらに迫ってこようとしていた。

目も口も鼻もないけど、喉元に大きく裂け目が出来ていて。

そこから、血なのか、涎なのか、よく分からない赤い液体が、てろてろ、と滲み出していた。

途端に、周囲に広がる強烈な腐臭。

わー。気持ち悪い。

「あの生き物、何?冥界の動物?」

あんなのがいるの、冥界って。

そういえば以前来た時も、ガイコツに追いかけられたっけ。

「あれはこの世界に残った、人間の罪だ。あれらを夢の中で祓うことが、俺の裁定した生贄達の役目…」

「…??」

「だが、今はそんなことはどうでも良い」

クロティルダは、私を庇うように前に出た。

「下がっていろ、我が姫。お前は必ず、無事に現世に返す」

「クロティルダ、どうするの?」

「決まっている」

クロティルダが片手を宙に翳すと。

そこに、一振りの華奢な剣が現れた。

剣の射程は、まだバケモノに届いていないはずだった。

もっと近づかなければ。

しかし、クロティルダが動く必要はなかった。

クロティルダが剣を振るうと、その剣は鎖のように伸びた。

蛇腹剣。

クロティルダの持つ剣は、そう呼ばれる類のものだった。

…私、この武器知ってる。

前にも見たことがある。…気がする。

「…消え失せろ」

クロティルダの蛇腹剣が、バケモノの胴体を真っ二つに切り裂いた。

あっという間に縦半分に切り裂かれたバケモノは、二つの肉の塊と化し。

力を失って、その場にころり、と倒れた。

…中身、すかすか。

もっと、血や「中身」が飛び出すかと思ったのに。

ツギハギの皮膚の内側は、すかすかの空っぽだった。

「…クロティルダ。これ、なぁに?」

「…さっきも言ったろう?…これは、人間の罪だ」

「…ふーん…」

それ以外に、答えるべき言葉はなかった。