神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

お食事の後。

「はー。美味しかった」

「それは良かったな」

「ジュリスにも食べさせてあげたかったなぁ」

それだけが残念である。

ネズミのお肉だよー、って食べさせてあげたら、きっと喜んでくれただろうに。

「ジュリス…。…ジュリス・レティーナのことか」

「うん。私の一番好きな人なの」

「…」

じー、と私を見つめながら、何かを考えるクロティルダ。

…私、何か変なこと言った?

「確か、『魔剣ティルフィング』の持ち主だったな」

「…てぃるふぃ?」

「あの男も、随分と長く…。…いや、だからこそお前の傍らに相応しいのかもしれないが…」

「…??」

きょとん。

…何のことだろう?

「…ところで」

と、クロティルダは私に尋ねた。

「お前、記憶は戻っていないのか」

「…きおく?何の?」

「…名前はなんと言う?」

お名前?…私の?

「私はベリクリーデだよ」

「ベリクリーデ…。…ということは、まだ記憶は戻っていないようだな」

…?

何の記憶?…それ、私の記憶?

クロティルダは、すっ、と自分の指を私のおでこに当てた。

「…何?」

「…力が抑えられているな。…成程、これは闇の『聖宝具』か…」

「…」

「イーニシュフェルトの聖賢者の仕業だな。こうすることで我らが主の力を抑えている…。…小賢しいが、それは、俺には関係ない」

「…ふーん…」

…何を言ってるのか、私にはよく分かんないけど。

「ベリクリーデ。お前はもう…俺の正体に気づいてるんだろう?」

「…天使さんでしょ?」

背中に羽根、生えてるもん。

良いなぁ。格好良い。

ジュリスの次くらいに格好良いよ。

「そうだが…。そうじゃない、俺が言いたいのは」

「じゃあ、何を言いたいの?」

「…俺は」

クロティルダは一瞬迷って、それから意を決したように、

「俺は、まだお前に必要な存在か?」

…と、聞いた。

「今の俺は、単なる裁定者に過ぎない。それでも…お前は、俺を必要としてくれるか?」 

「…」

…何だろう。不思議な感じ。

私、この人のこと、記憶にないはずなのに…。

覚えてる気がする。…凄く、大切な記憶。

ずっとずっと昔。まだ、ここがこの世の全てだった頃。

世界が、二つに分かれる前の記憶が。

でもアレは私じゃないから。

私であって、私じゃないから。

どう言うのが正解なのか、私には分からない。