神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

さて、隊舎に戻ってきて。

「ベリクリーデちゃんは…自分の部屋かねぇ?」

「いやぁ。ジュリスさんの部屋では?ジュリスさんの枕を抱いてころころしてそうです」

「うわー。やりそー」

めっちゃやってそうな気がする。

そういうとこ、いじらしいよなぁ。

こんな可愛いベリクリーデちゃんを置いていくなんて、ジュリスは一回くらいスズメバチに刺されてしまえ。

…しかし、そこに。

「あら、キュレムさん。それにルイーシュさんも」

「お」

「任務、終わったんですね。お帰りなさい」

こちらが階段を上っていると、上から階段を降りてくるシュニィに遭遇した。

シュニィじゃん。

「…危険手当を要求する!」

「ひゃっ!な、何ですか?」

思い出した。思い出したぞ。「任務」の一言で。

俺、さっきスズメバチに刺されたんだった。

こんな大事なことを忘れるんじゃねぇ。

しばらくの間、モスキート音が聞こえる度に「ビクッ」ってしそう。

何なら、幻聴のモスキート音が聞こえそう。

スズメバチのぶんぶん音は、蚊のそれより遥かに生々しいけどな。

今夜の俺は、間違いなくスズメバチに報復される夢を見る。確信がある。

「俺達が今日、何回スズメバチに刺されたと思ってんだ。危険手当もらわなきゃやってられねーよ!」

「そ、そうですか。それは、その…。心の底から同情するんですけど、わ、私にはその権限がなくて…」

「お、おぉう…」

マジレスされて、逆に困っちゃった。

その通り。シュニィが給料の額を決めてる訳じゃないんだから、シュニィに言っても仕方ない。

じゃあ、誰が決めるのかって?

…知らん。なんか偉い人。

「せめて、嘆願書を出しておきます。個人の働きに見合った報酬を支給するようにと…」

「いや、ごめん。俺が悪かったシュニィ」

そんな萎縮しないでくれ。本気で怒ってんじゃないから。

「あーあ、キュレムさん…。人妻を泣かせた…」

「ちょ、やめろルイーシュ。泣かせてはいないだろ」

ジト目で見るのやめろ。罪悪感を煽られる。

「よし、後でアトラスさんに言いつけよう」

「それはやめてくれって!マジで!」

涙目。

スズメバチに散々刺された後に、今度はアトラスの大剣に追い回されるなんて。

それ、どんな罰ゲーム?

「ごめんなシュニィちゃん。冗談だから。現状の給料に大変満足してる。何なら無報酬でも良い。労働万歳!」

「は、はぁ…。無報酬はさすがに…」

「ところでシュニィちゃん、こんなところでどうしたんだ?」

話の流れが大変俺に不利なので、強引にでも話題を変えようと思って。

「え?あ、はい…。実は、ベリクリーデさんを探しに来たんです」

「え?」

シュニィも、ベリクリーデちゃんを探してたのか。

そりゃ奇遇だな。

「先程ジュリスさんのお部屋を伺ったところ、いらっしゃらなかったので、ご自分の部屋かと思って…。今、行こうとしてたところです」

「あ、そうなんだ…」

シュニィも、「ベリクリーデはジュリスの部屋にいるだろう」と予測したんだな。

でも、いなかったと。

…マジ?