神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

まぁ、ベリクリーデは良くも悪くも、物欲があんまりないからな…。

俺達魔導師は、食事をする必要もないし。

何なら、隊舎の食堂で出る食費は、給料から天引きだし。

あまりお金を使う機会がない、というのは事実だが…。

…かと言って、給料ナシは有り得ないだろ。

これまでずっとタダ働きだと思ってたのか?

「聖魔騎士団って、たまにはお金くれたら良いのにねー、ってシュニィに言ったら、ちゃんとお給料はもらってますよ、って教えてくれたんだー」

「そ、そうか…」

シュニィもびっくりしただろうな。

ベリクリーデの馬鹿さ加減に。

「何だかね、えーてーえむ、っていうおっきい機械がお金をくれるんだって言ってたんだけど」

「ATMな…」

あと、お金をくれるんじゃなくて、お前が預けてるお金を引き出してくれるんだよ。

「面白いよねー、シュニィもあんな冗談言うんだね。機械からお金が出てくるなんて」

シュニィ、お前必死に説明してくれたんだな。

ベリクリーデに、ATMの仕組みを。

でも、この馬鹿、全然理解してない。

冗談じゃないんだよ…。シュニィはちゃんと、本当のことを教えてくれたんだよ。

「あのな、ベリクリーデ…。あれは別にお金をくれる機械じゃなくて…」

「…??」

「…駄目そうだな…」

とてもじゃないけど、ベリクリーデに銀行振り込み、銀行引き出しの仕組みを教えようとしても、理解してもらえる気がしない。

…もしかして、この給料袋はそのせい?

「もしかして…それで今月から、お前の給料だけ現金でくれるようになったのか?」

「ほぇ?うん。シュニィが、『ベリクリーデさんはこっちの方が分かりやすいかと思って』って」

シュニィ、お前は賢い。

ベリクリーデに銀行やATMの仕組みを教えるよりも、給料袋に直接お金を入れて、現金支給する。

そうすれば、ベリクリーデは給料を受け取ることが出来る。

…いや、これまでもちゃんと支給されてたけどな。

ベリクリーデが無自覚だっただけで。

多分こいつの口座には、手つかずのこれまでの給料が、一切引き出されることなく貯まってるんだろうな。

貯金も良いけど。たまには使えよ。

使うことに意味があるんだからな。お金っていうのは。

…だからって、他人様に配れとは言ってない。

俺が駆けつけるまでに、一体何人に、何枚配ったんだ?

中には、くれるならもらっとけ、と持って帰った奴もいるかも…。

…しかし。

俺は、そっとベリクリーデの給料袋の中を覗いた。

その中には、小さく折り畳まれた給料明細が入っていた。

給料明細に書かれていた金額と、封筒の中に入っていた万札の枚数。

完全に一致している。

つまり、誰も受け取らなかったのだ。

アホなベリクリーデがいくらお札を配っても、誰一人ポケットにしまうことなく、ベリクリーデに返却したのだ。

民度たっけぇ…。俺の職場…。

ベリクリーデ、お前、部下達のモラルの高さに感謝しろよ。