神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

ざっと詳しく経緯を説明すると。

まず、スズメバチ駆除の依頼をしてきたのは、王都セレーナに住む、とある家族。

最近、近所にスズメバチが出る、とのことだった。

その家には小さい子供もいるので、余計に心配だったのだろう。

スズメバチに刺されたら、痛いじゃ済まないからな。

刺されたことある?俺はない。

で、あんまり頻繁に出没するものだから、近くに巣があるんじゃないかと、屋根裏に登ってまで大捜索した。

しかし、スズメバチの巣は見つからない。

一体何処から来てるんだと思いきや。

スズメバチの出処は、その家じゃなくて、その家のお隣。

そこには木造のふる〜い家があって、お年を召して若干ボケ気味、いや認知症を患った一人暮らしのおばあちゃんが住んでいた。

どうやら、スズメバチの巣は、そのおばあちゃんの家にあるらしい。

しかし、困ったことに。

おばあちゃんはボケ気味、いや認知症を患っているので。

「おたくにスズメバチの巣が…」と苦言を呈しても。

「ほうほう、今年も来ましたか。餌をねだる姿がなんとも可愛いですねぇ」と、笑顔でスルーされたとか。

ばーちゃん、多分ツバメの巣か何かと勘違いしてるんだと思う。

こうなったら、もう埒が明かない。

おばーちゃんにはいくら言っても通じないし、いつ刺されるか分からないし、おばーちゃんの家族も何処に住んでるのか分からないし。

困り果てて、市に相談したところ、今度は市が聖魔騎士団に頼んできた。

おばあちゃんとは会話がまともに成立しないし、それに細々と年金暮らしをするおばあちゃんには、害虫駆除業者の依頼料は払えない。

そこで、国民の税金によって、無償で働く聖魔騎士団の出番である。

そういう経緯で、俺達にお鉢が回ってきたってこと。OK?

まぁ、聖魔騎士団は普段から、こういう便利屋仕事みたいなことも業務の一環だからな。

特に、今の聖魔騎士団副団長のシュニィは、お人好しの塊みたいな人だから。

頼まれると断れず、相談されると手を貸さずにはいられないタチなもので。

何なら、街の大規模な溝掃除とか草むしりとか、そういうのまで聖魔騎士団が請け負うこともある。

良いことだよ。

聖魔騎士団は、こんな呑気な仕事してる方が良いんだ。

聖魔騎士団と警察と病院と消防署は、暇を持て余してるくらいが丁度良いの。

…とはいえ。

喜んでスズメバチ退治をしたいかと聞かれると、そんなはずがない。

ましてや、嫌がるルイーシュを連れて。




「はぁ…。何で俺がこんなことを…」

「仕方ないだろ…。他にやる人がいないってんだから」

文句を言うな。俺だってやる気がなくなるだろ。

「あぁ、こんなことなら俺は、魔導師になんかなるんじゃなかった。いっそ魔導師排斥論者になれば良かった」

「ほう?じゃあ今すぐ駅前とか役所の前に言って、魔導師排斥運動のビラ配りや座り込みをしてこいよ」

「嫌ですよめんどくさい」

「じゃあ魔導師やってろ」

「…もー…」

もーじゃねぇんだよ。

俺だって気が進まないんだからな。何が嬉しくてスズメバチ退治を。