神殺しのクロノスタシス〜外伝集〜

「お前、これ、自分の金なんだろ?」

「うん」

「それを、何で配ってんだ…!?」

自分の金をどうしようが、本人の勝手。それは分かっている。

分かっているけども。

何だってお前…人様に無償配布してんの?

どうせなら、募金箱に突っ込んできたら?

「だって、ジュリスが」

「は?俺?」

「うん。ジュリスが人の役に立つことをしろって」

…俺のせいだった。

「あのな…。違うんだベリクリーデ…。いや、うん…。言ったけど…」

言ったよ?俺。人の役に立つことをしろって。

それも、料理以外でな。

それで何で、人様に金を配ることになるんだ…?

「お金もらったら、嬉しいかなーって思って」

そりゃまぁ、分かるよ。

大抵の人は、お小遣いもらったら喜ぶよ。

だけどな、それとこれとは話が別。

「だから、はい。ジュリスにもあげるー」

やめろって。押し付けようとしてくるな。

つーか、さっきもらったし。

「良いから、これはちゃんと自分で持っておきなさい」

俺は、ベリクリーデにお札を突き返した。

ベリクリーデの封筒をひったくり、その中にお札を戻した。

「あぁ〜…」

「お前、一体何人に配った?」

「?いっぱい」

…なんてことだ。

一体何人に、何万円配ったのかと戦慄したが。

「でもね、誰も受け取ってくれないの。皆突き返してくるの」

「…」

…そうか。

民度高いな、ウチの部隊…。

よくよく見ると、ベリクリーデが持っていたこの封筒。

給料袋だ。

…何で?いつもは振り込み…。

「あのね、ジュリス。知ってた?」

「…何を?」

「私もジュリスもね、毎月お給料もらってるんだよ」

…は?

「いや…働いてるんだから、給料もらうのは当たり前だろ?」

そろそろ俺は、給料の中に「ベリクリーデの世話代」を加算して欲しいと思ってるところだが。

それはさておき。

「でも、これまでは一回もお給料もらったことなかったよ?」

「いや、だからそれは…銀行振り込みだから。現金支給じゃないから」

大抵の企業はそうだろ?

大昔は現金支給が当たり前だったかもしれないが。

最近の企業は、大抵銀行振り込みだ。

まぁ、中には未だに現金支給の企業があるかもしれないが…少なくとも聖魔騎士団は銀行振り込みだ。

「…?ぎんこーふりこみ?げんきんしきゅー?」

しかし、ベリクリーデは職場の給料体制を全く理解していなかった。

お前、よくそれで今日まで労働者やってこれたな…。