──それはほんの一瞬。もう何度目だろう、無許可に唇が攫われたのは。
触れるだけの甘さは、瞬きの隙すら与えてくれない。
そしてその瞬間にここがあたしたちふたりだけの空間ではないと思い出された。
どう考えてもあたしたちに向けられているこの空間のたくさんの声は、さっきみたいに可視化して浮かんでこない。声を捉えるより恥ずかしさが勝る。穴があったら入りたい。
ざわつくこの空間を思い出したところでもう遅い。
恥ずかしすぎて顔を上げられないあたしとは対照に、さっきとは違って余裕そうに満足そうに笑みを浮かべる瑛くんが目に浮かぶ。
最悪、ほんと最悪。なのに、そんな最悪なこいつを脳内からも心からも追い出せないところまできてしまった。



