後攻、てぃーだ…
ゆっくりとワインをグラスに注ぎ、てぃーだはそのグラスを、窓辺から射す陽の光に翳して呟いた。
「この赤……こんなに良く冷えているのに、アタシには何故だか温かく感じるの。
この一本のワインに、一体どれだけの熱い願いが込められているのだろう…」
てぃーだは続けた。
「この赤は、単なる葡萄の赤ではない。
このワイン造りに携わった全ての人々の情熱の色なんだわ!」
レストランの中は、水を打ったように静かになった。
まるで劇場の舞台で芝居を演じるかのような、抑揚のあるてぃーだの言葉を聞いて…皆、その場の雰囲気にすっかり飲み込まれてしまったのだ。
そして、てぃーだは高見沢がしたようにグラスを小さく揺らしてその香りを嗅いだ。
しかし、その直後に発した言葉は高見沢とは違っていた。
「おぉ、ロミオ…貴方はどうしてロミオなの!」
言わずと知れた名作『ロミオとジュリエット』の一節である。
ワインとは全く関係が無いと思われるこの台詞が、何故かこのシーンに見事にハマった。
(ジュリエットが見える!)
誰もがそう思った。
そしてその瞬間…
てぃーだの手にある赤い液体は、命を懸けて貫き通した二人の強い『愛』を象徴する『赤』へと変わった。
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