自販機が並ぶ前にある長椅子にわたしたちは腰を掛けた。

黒木さんはベンチに座るのと同時に「話したいことって、何かあったんですか?」とわたしの顔を覗き込み言った。

「、、、舞さんが居ました。」
「えっ?」
「舞さんが居たんです!さっき、心療内科の受付で黒木さんに会わせろって騒いでました。」

わたしの言葉に驚く黒木さんは、言葉を失っていた。
そして、困惑した様子で「舞さんって、あの舞さんですか?」と、信じられないという様子で言ったのだ。

「そうです、あの舞さんです。」
「でも、舞さんはあの世に送って、もうこの世界には居るはずありませんよ?」
「わたしもそう思いましたが、あれは確実に舞さんでした。あまりにも騒ぎ立てるので、警備員さんに外に出されていましたけど、、、。」

わたしがそう言うと、黒木さんは険しい表情を浮かべ「あとで警備室に行って確認してみます。それが本当に舞さんなら、くる実さんの身が危険です。タクシーを呼ぶので、すぐに帰宅して、僕が帰るまで家から出ないでください。」と言い、すぐに受付に行き、タクシーの手配をしてくれた。

黒木さんはタクシーが来るまで一緒に居てくれ、タクシーが到着すると「絶対家から出ないでくださいね?」と心配そうな表情を浮かべて言い、わたしを見送ってくれた。

わたしはタクシーの窓の外を流れていく景色を眺めながら、不安でいっぱいだった。

舞さんに、この穏やかな生活を壊されてしまうかもしれない。
黒木さんを奪われてしまうかもしれない。

わたしはアパート前に到着すると、駆け足で自分の部屋がある階まで上がり、急いで中へ入ると鍵をかけた。
わたしの心臓はバクバクと身体中に響き、今にも飛び出てくるんじゃないかというほどだった。