「生きること」 続編


わたしが内科受付前の長椅子で薬剤師さんを待っていると、隣の心療内科でアナウンスがかかった。

「村坂敬介さん、3番の診察室にお入りください。」

アナウンスで呼ばれたその名前に、わたしは驚いた。

えっ?敬ちゃん?
まさか、同姓同名だよね。

そう思っていると、心療内科の受付前の椅子から立ち上がった男性を見て、わたしはつい「あっ、」と声が漏れそうになった。

赤いパーカーを着て、整えていないであろうもっさりとした髪の毛の男性は、紛れもなく、あの敬ちゃんだったのだ。

敬ちゃんは無表情で、というよりぼんやりとした様子で3番の診察室に入って行った。

敬ちゃん、ここの心療内科に通ってるんだぁ。
大丈夫かなぁ、、、

児童相談所の施設で育ち、人の愛に恵まれず、ずっと一人だったと言っていた敬ちゃん。
わたしが初めての友達だと言ってくれた。

でも、、、黒木さんは、向こうでの記憶は残っていないはずだと言っていた。
だから、もし声を掛けたとしても、わたしのことも分かるわけがない。

何だか切ない気持ちになった。

すると、「桐屋くる実さーん」と呼ばれる声がした。

わたしが慌てて「はい!」と返事をすると、白衣を着た薬剤師さんが薬を持ってきてくれた。

「わざわざ持ってきていただいて、申し訳ないです。」
わたしがそう言うと、薬剤師さんは「気にしないでください。お会計は黒木先生からいただきますので、このままご帰宅されても大丈夫ですよ。」と柔らかい口調で言ってくれた。

「風邪薬は朝昼晩、1錠ずつ飲んでいただいて、頓服で解熱剤が4回分出てるので、もし熱が上がってきた場合は飲んでください。」
「分かりました。」

わたしは薬剤師さんから説明を受けると、もう一度お礼を言い、敬ちゃんのことが気になりながらも病院前に並ぶタクシーに乗って帰宅した。