「生きること」 続編


わたしはベランダへ出る窓を静かに開けると、「眠れませんか?」と黒木さんの後ろ姿に問いかけた。

黒木さんは驚いたようにこちらを振り向くと「起こしちゃいましたか?」と言った。

わたしはベランダ用のスリッパを履くと、黒木さんの横に並んだ。
黒木さんは「風邪引いちゃいますよ。」と言いながら、自分が羽織っていた濃い灰色のカーディガンをわたしの肩にかけてくれた。

「わたしも眠れなくて。」
わたしがそう言うと、黒木さんは「僕と同じですね。」と言い、わたしの肩を抱き寄せた。

「月が綺麗ですね、、、。」
雲が全く無い空に浮かぶ満月を見ながら、黒木さんは言った。

そういえば、黒木さんが人間に転生し、こっちの世界に来て、初めて三日月を見たときは「危ないです!何かが起こります!」と言って慌てていたのを思い出した。

黒木さんが教えてくれた特別な場所にあった大きな満月は欠けることがなく、あの満月が欠けるのは危険を意味していたからだ。

だから、黒木さんが三日月を見て慌てていたとき、わたしは何とか黒木さんが落ち着くように宥めながら、こっちの世界で月が欠けることは問題ないことを説明したのだ。

「くる実さん、すいません。僕のせいで、またくる実を危険な目に遭わせてしまうかも、、、」
黒木さんがそう言いかけたので、わたしはそれに被せるように「黒木さんのせいじゃありません。」と言った。

「でも、、、」
「黒木さんは何も謝るようなことはしていません。わたしはわたしで気をつけますし、何かあったらすぐに連絡しますから。」

わたしの言葉に悲しそうな表情で微笑んで見せる黒木さん。

わたしたちはそれ以上何も言わずに抱き締め合い、それから寝室に戻って眠りに就いた。