引っ越し先のマンションは、わたしが働くお花屋さんの近くで歩いて5分程の通勤距離にある。
今のアパートは、通勤に徒歩20分程かかっており、わたしのことを優先して黒木さんがわたしの職場近くのマンションに決めてくれたのだ。

幸いなことに、黒木さんが勤める総合病院へも、今より近くなるからと即決だった。

無事に引っ越しが終わると、わたしたちはベランダから夕日を眺めた。
8階なので、そこそこ先の方まで住宅街を見渡すことが出来る。

冷たい秋風に身体を縮めると、黒木さんが肩を抱き寄せてくれた。

「綺麗な夕日ですね。」
オレンジ色に光る夕日を眺めながら、黒木さんは言った。

「現実世界は、朝日があれば、夕日もあって、朝があれば夜もあって月が顔を出して、、、素敵ですね。」
「人間になれて良かったですか?」

わたしがそう訊くと、黒木さんは優しい表情でわたしを見下ろし「当たり前じゃないですか。」と言ったあと、わたしを抱き締め「何より、くる実さんの側に居られるのが一番幸せです。」と言った。

「僕は、この幸せを守っていきたい。死神のときのように、くる実さんに何かあったとき、すぐに駆け付けられないのは不安ですが、、、でも、僕はくる実さんを守ってみせます。」

黒木さんは力強くそう言った。

「約束ですよ?」
「はい、約束です。」
「黒木さんが危ないときは、わたしが守りますね。」

わたしの言葉に黒木さんは嬉しそうに「よろしくお願いします。」と言うと、フフッと笑ったのだった。