私はそんな光景に苦笑いしながらも
鞄を持って玄関に向かえば

「菜美」

と、お母さんが見送りに来た。

「学校の方は本当に大丈夫…?
家の事でまた何か言われたりしてない?」

「…うん、それは大丈夫。
皆真面目で成績良くて…
不良の世界とかとは無縁な人達の集まりの学校だから。市川って聞いても分からないみたい」

…お母さんは私が中学の時、
"市川"という名で色々と
悲惨な目に合ったのを知っている。

まぁ…悲惨というのは大げさだけど

私に何かすればあの超絶シスコン双子の
兄や姉が動くと思われ
生徒全員から怯えた目で見られたり…

兄や姉の不良の舎弟達からは
めちゃくちゃ大声で挨拶をされ…

私が気になる男の子がいるとうっかり言えば
父や弟達は凄い怖い形相になり
学校までその男の子を確かめようと
押し寄せてきそうになったこともある。

…それはお母さんがお父さんを宥めて
何とか止めてくれたが。

「…何で皆、
私の事をそんなに気にするのかな。
私、不良になれなかったし…
ホントはお父さんも他の皆もガッカリするのが当然でしょ…」

何で私だけ
不良の血を受け継げなかったのかな…。

喧嘩どころか、運動神経もないし…
別に不良になりたかった訳じゃないけど
仲間外れにされてるような感覚がして
それが凄くコンプレックスだ。

真面目なのは良い事だけど…
私は市川家の一員としていていいのかな。

…そんな事を思う時もある。