(今日は会えない)

レースクイーンの仕事だけでは食べていけないから、イベントコンパニオンのアルバイトを兼ねる
寧ろ生計の中心は派遣の方だった
レースがある日程は限られているから、トップクラスのレースクイーンにならない限り本職だけで生活を成り立たせるのは難しい
あとはサーキットを疾走する貴公子たちの心を、滑らかなハンドル捌きと繊細なシフトチェンジで、私に向けることができるか

彼氏にメッセージを送信して、家を出た
彼は一般的な会社員で優しくてほっこりする
薄毛だけど気になったことはないし、むしろ男らしさの象徴とさえ感じていた
一方で、貴公子たちの助手席に座る理想も忘れていない

アパートを出て大正駅方面に歩いていく
途中にこじんまりとした古風な銭湯があって、あそこで仕事が入った時には立ち寄り入浴して心身を清める
数回通ったうちに番頭の白髪と親しくなり、今ではメッセージのやり取りをする仲だ
銭湯を出る時には番台には彼ではなくて黒髪のレディが座っていたから、外に出たと同時にメッセージした

(いいお湯でした)

サッパリした心持ちで歩を進めて大正駅を越えていく
バイクショーのイベントだ
徒歩にブレーキをかけて球形の屋根を見つめた
「ふう」
心のエンジンを掛け直すとクリープ現象が起こり私の脚がオートマして、ドームに向かって歩行した