「……平和ですね」
「そうね。魔王が復活したなんて嘘みたいだわ」
ふたりでのんびりとお茶をしていると、聖剣の叫び声がふたりの脳内に響いた。
『勇者よ! 我の話を聞けーー!!』
「…………………………」
ひたすら無視を続けるアランに、セルシアは聖剣を気の毒そうに語りかけた。
「……ところで。聖剣が必死にあなたに呼びかけているわよ……?」
「お嬢様……。この場には勇者なんていません。私の名を呼ぶのはお嬢様だけでございます」
「え? でもアラン、あなた先日勇者に選ばれ……」
「……でも、そうですね。外野があまりにもやかましいため、早急に対処します」
「えっ?」
『へあっ!?』
アランは聖剣を逆手に持って上空に投擲しようとする。
「魔王城目掛けて廃棄すれば、目的地に到達出来る分、聖剣も文句は言わないでしょう」
『聖剣だけ敵のもとに向かってどうする、この大バカ者!!』
アランが真顔で腕にグッと力を込める。
あまりにも本気に見えるため、聖剣とセルシアは慌てて静止した。
『うわ! まてまてまてまてーーいッ!!』
「そ、そうよ! 聖剣にそんな無体ことをしてはいけないわ!」
「お嬢様……!」
『そうだそうだ! 良く言った、小娘よ!』
「素敵なレディであるお嬢様が小娘、ですって? ……脳内でガタガタとうるさい鉄くずですね。バラの支柱にでもしてやりましょうか?」
『おまっ! 我が神聖なる刀身を、土に突き刺すな! 我が纏って良いのは鞘と、勇者の闘志……うわ、なにをする! やめっ、やめろー!!』
ザクッ。
と言う小気味よい音を立てて、聖剣は花壇に突き刺さった。
『……』
太陽の光を受けてキラキラと輝く白銀の刀身が、花壇に咲く花々をより一層輝かせ始めた。
「さて。大人しくなりましたね」
「……そう、ね?」
「庭園がより輝いて美しくなった気がします。あそこが彼の居場所だったんでしょう」
「そう……かしら? それとアラン、花壇を荒らしてはダメよ?」
「申し訳ありません……ついカッとなって」
爽やかな微笑みを浮かべて戻ってきたアランを嗜めるセルシアだが、どこかちょっとズレている。
「どうして聖剣は静かになったのかしら?」
「長い間石碑に刺さっていたのが、トラウマらしいですよ」
「聖剣のトラウマ」
「とにかく何かに突き刺さるのがイヤみたいです。突き刺す方は許せるらしいんですが」
「……どう違うのかしら?」
「分かりません。とにかく、早く魔王討伐に行けとうるさい日は、こうして静かにさせています」
「……アラン……」
紅茶をひとくち口にして、セルシアは不安そうにアランに問いかけた。
「アランは魔王討伐に……行かなくて大丈夫なの?」
「行きませんとも。私の仕事はお嬢様にお仕えすることですから」
「でもね、勇者に選ばれたのでしょう?」
「石碑に突き刺さった聖剣を、早く帰りたい一心で力尽くで抜いただけなのですよ」
「あのね、アラン? ふつうは力尽くでも抜けないのよ?」
「お嬢様のためなら、それくらいやってみせます。世界だって滅ぼせますからね」
「ふふっ、大げさね。……でも、本当は嬉しいわ。あなたがまだまだそばにいてくれて」
どこか不安そうにしていたセルシアは、アランとの会話でほんの少しだけ笑顔になった。
「でも、近いうちに旅に出てしまうのね……」
「お嬢様……。大丈夫です、私はずっとおそばにおりますから」
ふたりのちょっぴり切ない会話の隅で、聖剣は大人しく黄昏れていた。
『勇者よ……。お前、旅立つつもり本気でないだろ……』
「そうね。魔王が復活したなんて嘘みたいだわ」
ふたりでのんびりとお茶をしていると、聖剣の叫び声がふたりの脳内に響いた。
『勇者よ! 我の話を聞けーー!!』
「…………………………」
ひたすら無視を続けるアランに、セルシアは聖剣を気の毒そうに語りかけた。
「……ところで。聖剣が必死にあなたに呼びかけているわよ……?」
「お嬢様……。この場には勇者なんていません。私の名を呼ぶのはお嬢様だけでございます」
「え? でもアラン、あなた先日勇者に選ばれ……」
「……でも、そうですね。外野があまりにもやかましいため、早急に対処します」
「えっ?」
『へあっ!?』
アランは聖剣を逆手に持って上空に投擲しようとする。
「魔王城目掛けて廃棄すれば、目的地に到達出来る分、聖剣も文句は言わないでしょう」
『聖剣だけ敵のもとに向かってどうする、この大バカ者!!』
アランが真顔で腕にグッと力を込める。
あまりにも本気に見えるため、聖剣とセルシアは慌てて静止した。
『うわ! まてまてまてまてーーいッ!!』
「そ、そうよ! 聖剣にそんな無体ことをしてはいけないわ!」
「お嬢様……!」
『そうだそうだ! 良く言った、小娘よ!』
「素敵なレディであるお嬢様が小娘、ですって? ……脳内でガタガタとうるさい鉄くずですね。バラの支柱にでもしてやりましょうか?」
『おまっ! 我が神聖なる刀身を、土に突き刺すな! 我が纏って良いのは鞘と、勇者の闘志……うわ、なにをする! やめっ、やめろー!!』
ザクッ。
と言う小気味よい音を立てて、聖剣は花壇に突き刺さった。
『……』
太陽の光を受けてキラキラと輝く白銀の刀身が、花壇に咲く花々をより一層輝かせ始めた。
「さて。大人しくなりましたね」
「……そう、ね?」
「庭園がより輝いて美しくなった気がします。あそこが彼の居場所だったんでしょう」
「そう……かしら? それとアラン、花壇を荒らしてはダメよ?」
「申し訳ありません……ついカッとなって」
爽やかな微笑みを浮かべて戻ってきたアランを嗜めるセルシアだが、どこかちょっとズレている。
「どうして聖剣は静かになったのかしら?」
「長い間石碑に刺さっていたのが、トラウマらしいですよ」
「聖剣のトラウマ」
「とにかく何かに突き刺さるのがイヤみたいです。突き刺す方は許せるらしいんですが」
「……どう違うのかしら?」
「分かりません。とにかく、早く魔王討伐に行けとうるさい日は、こうして静かにさせています」
「……アラン……」
紅茶をひとくち口にして、セルシアは不安そうにアランに問いかけた。
「アランは魔王討伐に……行かなくて大丈夫なの?」
「行きませんとも。私の仕事はお嬢様にお仕えすることですから」
「でもね、勇者に選ばれたのでしょう?」
「石碑に突き刺さった聖剣を、早く帰りたい一心で力尽くで抜いただけなのですよ」
「あのね、アラン? ふつうは力尽くでも抜けないのよ?」
「お嬢様のためなら、それくらいやってみせます。世界だって滅ぼせますからね」
「ふふっ、大げさね。……でも、本当は嬉しいわ。あなたがまだまだそばにいてくれて」
どこか不安そうにしていたセルシアは、アランとの会話でほんの少しだけ笑顔になった。
「でも、近いうちに旅に出てしまうのね……」
「お嬢様……。大丈夫です、私はずっとおそばにおりますから」
ふたりのちょっぴり切ない会話の隅で、聖剣は大人しく黄昏れていた。
『勇者よ……。お前、旅立つつもり本気でないだろ……』
