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「それでな、お嬢さんはワシの死んだ嫁さんの若い頃にそっくりでのぅ」
「そうなの?そんなに似てる?」
「あぁ、そっくりじゃ。特に目元がよく似とる」
卒業式まで残すところ2週間。マンションの下の公園で見知らぬお爺さんとベンチに座り、にこやかに会話を交わす。
雲1つ無い空の下。マンションから出て直ぐ、足が痛いと言うお爺さんに遭遇し、ベンチまで手を貸すこと数分。
どうやら、お爺さんの亡くなった奥さんの若かりし頃と私の顔がそっくりらしくて、さっきからお爺さんの口が動いて止まらない。
突いていた杖も地面に放り出し、私の手をぎゅっと握り締めて心の底から感動している様子。
キラキラと輝く目は純粋そのもの。強請るように“もう少しだけ話がしたい”と言われ、断ることも出来ずに頷く。
本当は本屋に行く予定だったけど、まぁいっか。急いでないし。もう少しだけ話に付き合おう。
「彼女は本当に抜けた人でな」
「おバカさんだったの?」
「そうじゃ。同情を買うような言葉言うと直ぐに騙されよった」
「えー、私と一緒だね」
「ほう。お嬢さんも騙されやすいのかね?」
「うん」
「それはそれは。気を付けなければいけないのぅ」
「……おいっ!」
会話を始めて少し時間が経った頃。麗しきお爺さんの思い出話を見知った男の子の声が遮る。振り返ったら蓮くんが息を乱して立っていた。
急いで家から出てきたのか服は部屋着だし、髪も素のまま。寛いでいるところ走ってきたっぽい。それも余程、急いでたのかサンダルのまま。



