「今の…、何?」
「スリだろ」
「スリ?」
なんで分からないんだと言いたげな顔を蓮くんに向けられ、目を見開く。スリって本気で?あんなお爺さんが?私に?そんなことってあるの?
思ってもみなかった展開に頭の中がパニックだ。詐欺には何度か引っ掛かったことがあるけど、スリは初めて。ビックリ。
「本当に次から次へと。よくそんなに引っ掛かるな」
「だって困ってたし」
「だからってお人好しすぎだ。昨日も近所のオバサンに掃除を手伝わされてただろ」
「あれ?よく知ってるね」
“ははっ”と苦笑いを零した私に蓮くんはほとほと呆れたように目を細める。
そう。昨日、図書館に本を返しに行く途中、近所のオバサンに絡まれて掃除を手伝わされた。
時々、顔を見掛けるオバサンで、その日は家の前の道路を箒で掃除してたみたいだった。だから『お掃除ですか?頑張って下さい』と挨拶を交えながら言ったんだけど、それがイケなかったらしい。
『あら。頑張って~ってなーに?あなたもここを通るんだから、たまには掃除くらいしなさいよ』と箒を持たされ、気付いたら何故か私がオバサンの代わりに掃除をしてた。
そこまではまぁ、別にいいんだけど。次第にアレもコレもと内容が増えていき、最終的にはオバサンの家の庭掃除と窓拭きまでやるはめになり、何かおかしい……と気付いたのは辺りがすっかり真っ暗になった頃。
急いで図書館に向かったけど、着いたのは閉館ギリギリで慌てて本を返したら『もっと早く来て下さい』と図書館員さんに軽く怒られてしまった。
罠なのか罠じゃないのか……。オバサンが放った『あたしの若い頃はそこで一言、お手伝いしましょうかと自らから気を利かせて言ったもんだけどね』って決め台詞が頭に残る。



