様々な仮面を忍ばせる彼の"スイッチ"なんて、わたしに理解できるはずもない。
だって、思惑も感情も、なにひとつ読み取らせてなんてくれないのだから。
すう、と細められた瞳に囚われた一瞬で頭の裏に差し込まれた手のひらに距離を詰められて、とっさに顔を背けた。
……甘ったるい空気に、呑まれてしまわないように。
「、きりくんは、リナリアって知ってる?」
「……りなりあ?」
なんの脈絡もないセリフで一瞬表情を崩したきりくんに、こころのなかでほっとため息をつきながら、こくん、と頷いてみせる。
「……昔、リナリアを育てていたことがあるの」
「、へえ」
一年草と多年草があり種類も豊富なリナリアは、毎年こぼれ種で増える品種。春風に吹かれてふわりと揺れる紫がとても綺麗で、とても好きだった。
……なぜか分からないけど、きりくんとお花を見てたら急に思い出したそれ。
「リナリアって、いっぱい花言葉があるんだよ」
なんだか懐かしい気持ちになって、ふ、と口角が緩んだ。パステルカラーがさわさわと揺れる光景を思い出しながら、……また育ててみるのもいいかもしれない、なんて。
ゆるんだ表情のまま、誘われるように顔を上げた、……瞬間。
「(………っ、)」
ひゅ、と喉の奥で冷たい空気が震える。
……わたし、今、なにを口にしたんだっけ。
「──────……知ってる」
なにがトリガーだったのかは分からない。
さっきまで艶っぽい黒を浮かべていた瞳が、おだやかに持ち上げられていた口角が、──────まるで、出会ったあの夜のように、全部が知らないきりくんだ。
「"幻想、気高さ、断ち切れぬ思い"、………ああ、あと何だっけ」
ぐにゃり、と、見下ろす瞳に映っていたわたしがひどく歪んで、揺れる虹彩はどこまでも闇に包まれていて。



