nonsense magic




お知り合いさんの背中に頭を寄りかかるようにして立っていたそのひとは、肩を押されたはずみにふらりとバランスを崩す。


あぶね、とお知り合いさんがとっさにそのひとのパーカーを鷲掴みにすると、次の瞬間、気まぐれにその手を離してしまった。


え、倒れ……!?


「……っ、」


咄嗟に両腕を伸ばして、バランスを崩した身体を受け止めた。瞬間、ふわり、鼻腔を擽ったフゼアの香りに誘われるように、ぱちり、瞬きが落ちる。


……これは、なんだろう。
胸下のあたりに両方の手のひらをついて、初対面の男のひとの体重を支えている。


視線の上。パーカーから覗くグレーの髪が、風に流されてさらさらと揺れている。



「……あ、の、」

「………」


見事なまでの、ノーリアクション。

前髪が目元を覆っているから、彼の表情はほとんど見えない。かろうじて見える口元も静かに閉じられているから、なす術なし……?


すると、突然。

んん、とくぐもったような声が聞こえたかと思うと、さっきまで下がっていた両腕が背中に回されて、ぎゅう、とゆるい力で抱きしめられる。



「ぁ、ぇっ、?!」


首筋に吐息がかかって、おもわず身体が後ずさる。なかば閉じ込められているような体勢に、たすけて、ときりくんの方に視線を投げようと顔を上げれば。



「いい加減、起きろ」

「そろそろ起きよーな?」


双方から同時に声が落とされると、覆われていた視界が開かれる。きりくんがパーカーを雑に揺さぶって、お知り合いさんが背中を勢いよく叩く。