視線をあげた先、真新しいダークブラウンのキャビネット。窓の隙間から侵入した風が、ぽつりと置かれたカレンダーを揺らした。
一瞬だけめくれたページに、……ずく、と心臓が嫌な音を立てて唸る。
「(……、ああ)」
はらりと戻った7月のページには、予定もなにも書き込まれていない。未使用で新品、と言えるくらい、真っ白なカレンダーのなかで、唯一。
……見慣れた数字を囲う、赤いマル。
「…る」
身に覚えのある痛みと流れるような痺れが心臓を伝う。ゆっくりと冷水を浴びせられるような、……冷たい感覚に導かれるように、口からこぼれたセリフ。
「─────あげる。きりくんに、……ぜんぶ」
……だから、ね。
きりくんの薬指をよわく掴んで、おそるおそる指先をにぎった。…そのまま、ぎゅ、と薬指同士を絡めるように繋いでみたら、
────昨夜ふれた温度より冷たいけど、変わらない''それ''に、ほっとすると同時に泣きそうになる。ふれた先からお互いの温度が混ざりあうみたいで、心地いい。
一時凌ぎだと言われてもいい。ひととき甘えられるなら、ひとりにならなくて済むのなら。
「その期間だけは、そばにいて……っ」
掠れた声に答えるみたいに、3秒後。
繋がれた指先と同じ、……昨夜と変わらない温度が落とされた。
「……ん、っ」
頬に添えられた手のひら。指先がやさしく輪郭を撫でるから、なんだか擽ったくて目を瞑ったら、ゆっくりと唇が離れた。
向けられる眼差しに温度は籠っていないのに、重なった一点だけがひどく熱を持っている。
「そばにいる、……っつーか」
優艶な瞳がほどかれたはずみに、無機質なそこにぽつり、淡いなにかが映ったように見えた。
柔らかさを纏う表情に、とくとくと心臓が高鳴って、喉のあたりになにかが突っかかったみたいにに声が出ない。
……なんだろう、これ……。
ゆるやかに瞬きを落としたきりくんは、わたしの前髪あたりを爪先で梳かしたあと、ふ、と薄く笑みを浮かべて。
「……こころの隣にいる」
─────やくそくだよ、きりくん



