痛い目……。
きりくんの言う通り、わたしは彼に油断していたのだろうか。
きりくんはそもそも病人で、ふらふらで、力任せに''そういうこと''を強要してくるひとにも見えなかったから……。
彫刻のように綺麗な顔、掴めない雰囲気、どこかマイペースで、女のひとにも慣れていて、……それで。
「きりくんは、すきでもないひとにもそういうこと…するの、?」
下からすくうように見つめながら問いかけたわたしに、きりくんは無表情のまま、ふ、と口角だけをあげる。
冷えきった表情《かお》。
それを強調させるように温度がない瞳が細められて、ゆっくりと頰を撫でられた。
輪郭をなぞるように指先をすべらせて、そのまま流れるように首元へと移動させる。
……その冷たい温度に、ひやりとした。
「…できるって言ったら?……幻滅する?」
ほんの一瞬、言葉の終わりが切なげに霞んだ気がした。
……また、知らない"きりくん"
このひとは、いくつの仮面を忍ばせているんだろう。どれが、ほんとうのきりくんなんだろう。
……なんて、考えても仕方ないことだって、ずっと自分に言い聞かせている。
「…しないよ、」
──────幻滅なんてしない。
わたしに、そこまで深くきりくんに干渉する権利なんてない。
「それに、……すこしだけ、わかるから」
だれでもいい……って、きりくんの言葉の意味とは、すこし違うかもしれないけど。



