「おれがこわいって言ったよね、おまえ」
……また、"変わった"
突き放すように笑って、わたしの首裏に添えた手にぐ、と力をこめる。爪が肌に食い込んでいく感触に顔をひそめれば、きりくんはこわいくらいに静かな瞳を向けられる。
「…いまのきりくんは、こわい、よ。でも、さっきまでのきりくんは、やさしかったから」
「さっきまでのおれがうそ、ってことなんじゃない?」
「きりくんがわたしを助けてくれたのは、ほんとだよ」
あなたのことを、わたしはなにも知らない。……きっと、知りたいとおもうことさえ、このひとには許してもらえないんだろう。
だから、わたしは自分の目で見た"事実"だけを信じるしかない。
「見ず知らずの他人を助けてくれたきりくんは、やさしい……と思う、」
男のひとに絡まれてる女なんて、側から見たら面倒なだけ。誰もが見て見ぬフリで、それが当たり前だったあの場所で。
……きりくんだけが立ち止まって、助けてくれたんだよ。
体調も悪くて、そんな余裕はなかったはずだ。実際、倒れてしまうくらい身体は限界を迎えていたあの状況で、他人に手を伸ばせる彼を、わたしは"やさしいひと"だとおもった。
あのときのきりくんの行動が、気まぐれでも、もう、なんでもいい。
「……やさしいかどうかは、受け取った側がきめること、でしょ」
ほんのすこしのいたずら心を混ぜて、片方の口角をあげて笑みをつくる。



