「……服、サイズどう?」
「ちょうどいい。風呂もありがと」
「あったまった……?」
「なんかぽかぽかする。ひさしぶりにお湯つかったわ」
"ぽかぽか"なんて、やわらかい響きがなんだかおもしろくて、ふふ、と笑みがこぼれる。そんなわたしにきりくんは不本意そうに眉を顰めたので、またすこし笑ってしまった。
すると、きりくんほんのりと上気した頬に、ぽたり、雫が伝った。それを人差し指でぬぐったきりくんの頭上から、またぽたぽたと水滴が垂れてくるから、おもわず目を見開く。
「きりくん、髪濡れたままだよ?洗面台のドライアー使ってないの?」
「あー…、うん。おれ、自然乾燥派」
「だめだよ、せっかく風邪治ってきてるのに。またぶりかえしちゃう……」
ふるふると首を横に振りながら、きりくんの首にかかっているタオルで頭を拭いてみるけど、やっぱりまだ髪はしっとりと濡れている。
「……こころ?」
「ちょっと、こっち」
きりくんに貸したスウェットの裾を引いて、リビングのソファの下まで誘導する。コンセントをさしてスイッチを入れると、ゴオオオ、と温風が吹き出して、その音がやけに静かな室内に響くから、唐突に、この部屋にはわたしときりくんのふたりっきりなんだ、と今さらの事実に気づいて、どくん、と心臓が跳ねる。
「髪、乾かしてくれんの?」
「わたしにさわられるの、いやじゃ、ない……?」
「こころなら、いーよ」
ほんのりと柔らかい声色。
前を向いているからわからないけど、きっと微かに口角をあげている。つくられた笑顔とは裏腹な無機質な瞳をすこしだけ細めるきりくんの表情が浮かんで、言葉では形容しがたい感情が浮かんでくる。
……きのう会ったばかりのひとの髪を乾かすなんて、不思議。



