「、き、きりくん?はなれ、……、ぅ」
不意にさらりと掬われて、落とされる。指先から滑り落ちた毛先が鎖骨に散らばって、擽ったい。そのまま流れるように首筋を伝う指先が、揶揄うように爪を立てて、かり、と引っ掻いた。
「、帰ってきた時からずっと、桜玖の匂いがする」
離れることを咎めるような仕草に、不覚にも脈が速くなる。トクリ、柔らかく高鳴る鼓動を抑えるようにぎゅっと手を握っていれば、なあ、と耳元でささめかれて、さらに指先に力がこもる。
……なんだろう、すごく、悪い予感がする。
「触らせたの、あいつらに」
なんとなく、本能、と言われればそうなのかもしれない。
でも、きりくんのこういう声に纏わりつく甘ったるさに騙されてはいけない。すこしでも隙を見せたら漬け込まれてしまうし、……彼の手のひらの上で操られるみたいに、自分が自分ではなくなってしまう。
『こころ、まだトばないで。……ん、そう、目逸らすなよ』
『っゃ、もうむり、……〜っ!」
……あの夜のことを思い出してしまうから。
ほんとうに、よくない。
「おれのお願いも聞いてくれる?」
「、ごめんなさい」
「ふ、即答?まだ何も言ってないのに」
「とても悪い予感がする、ので、むりです」
「……ふうん、えらいじゃん。ちょっとは"危機感"身についたんじゃないの、」
えらい、なんて小さな子供を褒めるような口調であやすように頭を撫でてくるのに、わたしを映す眼差しには不安定な熱が帯びている。



