窓から差すやわらかな光が部屋中を照らして、どこかやさしい香りを纏わせる。ワインレッドのカーテンの向こう側に広がる青空が見下ろす先、小さな建物がぎゅっと凝縮されたように並んでいる。それは、普段ならわたしを見下ろす側のはずのもので。
「あやこ?おい、いきてる?」
「………きれい、」
「はは。固まってんの、おもしろ」
揶揄うようにくすくすと笑う桜玖さんの隣、……もう、一生こんな景色は見られないかもしれない、と。ただ前だけを見つめて景色を目に焼き付けていたわたしの視界の隅っこに、突然あらわれたのは。
「……なずな、さん?」
「……………あやふねこころ、」
「、こころ、です」
グレーのパーカーを深くまで被りながら、ブランド品のロゴが縫われたソファに寄りかかっているなずなさんがこちらに振り向く。目元を覆う前髪も相変わらずのようで、表情はほとんど見えない。
「へー、おまえが女の名前覚えてるなんて珍しい」
「…………」
「………(なずなさん、ひとの名前覚えるの、苦手なのかな?)」
「なず、お前、一回関係持った女の名前すら覚えてないだろーが」
「、(………かんけいを、もった……)」
「、あれは、みんな同じ名前じゃん」
「もっとマシな言い訳あるだろ」
薄い毛布を被りながらソファでくつろいだ様子のなずなさんを鼻で笑ったあと、桜玖さんがふっと微笑をこぼす。
そのまま、なずなさんのフードを脱がせようとしたのか、相手の不意をつくようなタイミングでふわりと手を伸ばした桜玖さんだけど、それを察知したらしいなずなさんに、とてつもない速さでガードされていた。



