「…………」
「え、まじ?ここで黙る?」
「…………あ、すみません。ありがとうございます、」
瞬間、頭に浮かんだ"彼"の顔をどこかにやって、至近距離で向き合う桜玖さんに視線を戻す。微妙なカオで冷めた瞬きを落とす桜玖さんは、どこか不満げな様子。
「あやこって口説き甲斐ねーわ」
「くどき、がい……」
「もっとうれしそーなカオして?」
うれしそうなカオ、……笑えばいいのかな?
言われた通り、ふわ、と口角をあげて桜玖さんに向かって笑みをつくれば、途端満足そうに頷いた桜玖さんによしよしと頭を撫でられる。
「笑うとかわいーのな?」
「………さくさんは、笑うと一段と麗しいですね」
「ふは、麗しいて」
いちいち言葉選びツボなんだけど〜……って流れるような仕草で腕を掴まれ、長い廊下で桜玖さんの後ろをついていく。
桜玖さんは、ふれることに一切の躊躇がない。気づいたら桜玖さんのペースに引き込まれていて、でも、自由な立ち振る舞いを不快に思わせないから、すごいと思う。
「っ、わ……」
そこに立ち入った瞬間、ふわり、と心地のいい風が頬を撫ぜた。視界いっぱいに広がる景色があまりに非現実的で、何度も瞬きを繰り返してしまう。



