二人の刑事が大浦家から去ってから数十分後、ようやく父と母が帰宅したのだが、二人とも見るからに興奮していた。
父と母に興奮の理由を訊くと、二人は喜んで自分たちが興奮している理由を語ってくれた。
どうやら両親は警察署にただ呼び出されたわけではなく、たくさんの幻想事件を幻想捜査係の刑事から聞かされたらしい。
それで目を爛々と輝かせ、饒舌になっているわけか、とぼくは心底あきれた。
子ども心を忘れない大人というのも、案外厄介なものだと、ぼくは目の前の父と母から教わった。
それはともかくとして、父と母は死者蘇生事件について何も知らなかった。
なので、ぼくらは幻想捜査係の刑事たちが大浦家を訪れていたことを、ずばり両親に打ち明けた。
最初は気持ちが昂っていた父と母も、二人の刑事の目的を知ると、たちまち冷静になった。
ぼくらは夏奈さんの身に起こった幻想事件を含め、父と母にすべてを説明した。
それが済むと、ぼくは涙交じりに今の心境を語った。
父は目をつむったまま、母は手を組んだまま、ぼくの言葉に耳を傾けていた。
「ぼくらがしたことは、夏奈さんを不幸にすることだった。夏奈さんを悲しませることだった。夏奈さんを傷つけることだった。
それは決してなかったことにはできない真実だ。
だというのに、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けようとしているし、ウソをついたまま友達という関係を続けようともしている。
本当に救いようがない子ども以下の子どもだよ。……けど、そんなぼくらでも絶対に曲げてはいけないものがあったんだ。
それは信念。
どこまでも卑怯者で嘘つきのぼくらでも、自分たちが信じる考えだけは絶対に曲げてはいけないと、少なくともぼくは気付いた。希望である信念だけは絶対に曲げてはいけない、そうぼくは気付いたんだ。
だからさ、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けるよ。
それがウソをついたぼくらのけじめだと思うんだ」
自分の話を終えてから、ぼくは父と母の様子を恐る恐る観察した。
父は身動ぎもせず、集中したように固く目をつむったままだった。
母は涙目でぼくを見つめ、けれど涙が浮かんだ目は決してこすらず、絶対に手を組むのをやめなかった。
そんな重苦しい雰囲気を最初に破ったのは、ぼくらの母、大浦奏だった。
「わたしから言わせればね、翔……あんたはもう充分よくやっているわ。
悪意のない純粋な心をフル活用し、それで考えあぐねた結果、これぞというような最善の一手を思い付いている。
あふれんばかりの優しさで、友達の未来を考えている。
ねえ、それでもう充分ではないかしら。
あとは幻想捜査を専門に扱う刑事さんたちに、すべてを任せましょうよ。
それがいいわ、そうしなさいよ、翔。
わたしはね、あとで翔が傷ついて立ち直れなくなることが恐ろしいの。怖いの。
あんただってもう子どもじゃないんだから、子を想う母の気持ちを、どうか理解してあげてちょうだい。どうか察してあげてちょうだいよ、翔」
そこでついに母は手を組むのをやめ、両手で顔を覆い、ワッと泣き出してしまった。
ぼくは母が泣き出すのを見て、こちらももらい泣きしそうになり、たまらず目頭が熱くなった。
そんなとき、ぼくらの父、大浦隼人がようやく目を開け、「翔」とぼくの名前を呼んだ。
「お前の気持ちはよく分かった。だから、これはおれからの忠告だ。
――これ以上の深追いはやめておけ。絶対に後悔するぞ。
これはお前たちの手に負えないものだ。
夏奈ちゃんの幻想事件は専門の刑事たちに任せて、お前たちはいつもどおりの日常に戻りなさい。いいな?」
いいはずがなかった。
それで引き下がるぼくではない。
こうして、ぼくは三十分以上も父と口論をすることになった。
結果、父のほうが折れる形で、この口論は終わりを迎えた。
父と母に興奮の理由を訊くと、二人は喜んで自分たちが興奮している理由を語ってくれた。
どうやら両親は警察署にただ呼び出されたわけではなく、たくさんの幻想事件を幻想捜査係の刑事から聞かされたらしい。
それで目を爛々と輝かせ、饒舌になっているわけか、とぼくは心底あきれた。
子ども心を忘れない大人というのも、案外厄介なものだと、ぼくは目の前の父と母から教わった。
それはともかくとして、父と母は死者蘇生事件について何も知らなかった。
なので、ぼくらは幻想捜査係の刑事たちが大浦家を訪れていたことを、ずばり両親に打ち明けた。
最初は気持ちが昂っていた父と母も、二人の刑事の目的を知ると、たちまち冷静になった。
ぼくらは夏奈さんの身に起こった幻想事件を含め、父と母にすべてを説明した。
それが済むと、ぼくは涙交じりに今の心境を語った。
父は目をつむったまま、母は手を組んだまま、ぼくの言葉に耳を傾けていた。
「ぼくらがしたことは、夏奈さんを不幸にすることだった。夏奈さんを悲しませることだった。夏奈さんを傷つけることだった。
それは決してなかったことにはできない真実だ。
だというのに、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けようとしているし、ウソをついたまま友達という関係を続けようともしている。
本当に救いようがない子ども以下の子どもだよ。……けど、そんなぼくらでも絶対に曲げてはいけないものがあったんだ。
それは信念。
どこまでも卑怯者で嘘つきのぼくらでも、自分たちが信じる考えだけは絶対に曲げてはいけないと、少なくともぼくは気付いた。希望である信念だけは絶対に曲げてはいけない、そうぼくは気付いたんだ。
だからさ、ぼくらはこれからも夏奈さんにウソをつき続けるよ。
それがウソをついたぼくらのけじめだと思うんだ」
自分の話を終えてから、ぼくは父と母の様子を恐る恐る観察した。
父は身動ぎもせず、集中したように固く目をつむったままだった。
母は涙目でぼくを見つめ、けれど涙が浮かんだ目は決してこすらず、絶対に手を組むのをやめなかった。
そんな重苦しい雰囲気を最初に破ったのは、ぼくらの母、大浦奏だった。
「わたしから言わせればね、翔……あんたはもう充分よくやっているわ。
悪意のない純粋な心をフル活用し、それで考えあぐねた結果、これぞというような最善の一手を思い付いている。
あふれんばかりの優しさで、友達の未来を考えている。
ねえ、それでもう充分ではないかしら。
あとは幻想捜査を専門に扱う刑事さんたちに、すべてを任せましょうよ。
それがいいわ、そうしなさいよ、翔。
わたしはね、あとで翔が傷ついて立ち直れなくなることが恐ろしいの。怖いの。
あんただってもう子どもじゃないんだから、子を想う母の気持ちを、どうか理解してあげてちょうだい。どうか察してあげてちょうだいよ、翔」
そこでついに母は手を組むのをやめ、両手で顔を覆い、ワッと泣き出してしまった。
ぼくは母が泣き出すのを見て、こちらももらい泣きしそうになり、たまらず目頭が熱くなった。
そんなとき、ぼくらの父、大浦隼人がようやく目を開け、「翔」とぼくの名前を呼んだ。
「お前の気持ちはよく分かった。だから、これはおれからの忠告だ。
――これ以上の深追いはやめておけ。絶対に後悔するぞ。
これはお前たちの手に負えないものだ。
夏奈ちゃんの幻想事件は専門の刑事たちに任せて、お前たちはいつもどおりの日常に戻りなさい。いいな?」
いいはずがなかった。
それで引き下がるぼくではない。
こうして、ぼくは三十分以上も父と口論をすることになった。
結果、父のほうが折れる形で、この口論は終わりを迎えた。
