「ぼくらが夏奈さんを忘れる? 時空が夏奈さんを抹殺する、だって? そ、そんなこと起こるはずがないだろう、でたらめなことを言うな!」
ぼくは必死になって、佐竹刑事の言葉を否定した。
彼の言葉を否定しなければ、本当に夏奈さんを忘れてしまいそうで……時空が夏奈さんを抹殺してしまいそうで、とにかく怖かったからだ。
しかし、佐竹刑事は容赦なく首を横に振った。
「確かに、先例の『兄妹と忘却の死者蘇生事件』は、実際にそのような結末を迎えたわけではないのが現実です。
あれは事件の当事者である方たちの奮闘により、すべての人間が不完全な死者の存在を忘れることを防ぎました。
時空が当人の存在を抹殺する事態を回避しました。
なので、これを結末として扱うのはいささか間違っている、とは本官も思います。
ですが、これはキセキでも起こらない限り、“確実に起こる結末”なのですよ。
ええ、そうです。先例の事件の当事者たちは、起こるはずのない“キセキを起こした”のであります。
これはいわば、キセキのようなロマンのあるものではなく、人間の禁忌と呼ばれる類のものです。
時空に対する冒涜、と言ってもいいでしょう」
長たらしい佐竹刑事の説明は、こちらのイライラを助長するばかりで、なんの意味もなかった。
「はいはい、それで? 例の幻想事件と同一の事例だという確証はあるのかよ。
そんな意味のない説明を聞いても、ぼくは信じないぞ」
少々心苦しかったが、ぼくは佐竹刑事の説明を一蹴し、生意気にも腕を組んだ。
「おいこら、小僧。年上のおれたちにたてつき、腕を組むとはいい度胸をしているじゃないかよ、えぇ? てめえ、気に入ったぜ」
神崎刑事はそう言いながらも、怒りのためか、目が血走っていた。
ぼくはさりげなく腕を組むのをやめ、さっきから何も発言していない姉のほうを見た。
ぼくが姉に目を向けると同時に、姉もぼくのほうを見た。
それでようやく気付いたのだが、姉は何かを言いたそうな様子をしていた。
ぼくが手を使って話すように促すと、姉は深いため息をついてから、いやに神妙な顔で「翔、姉さんの言葉をよく聞いて。まじめに聞いて。それだけが約束じゃない、姉さんの言葉を絶対に疑ってはダメよ。だって、これは真実なんだから。これはあの二人の身に起こった実際の事なんだから、絶対に疑うことはしないで」と前置きを真剣に述べた。
ぼくはためらいながらも、大きくうなずく。
姉もぼくにうなずき返すと、張りのある声で語り出した。
「あたしの彼氏、坂上海堂くんと海堂くんの妹、坂上琴美ちゃんはね、刑事さんたちの言う『兄妹と忘却の死者蘇生事件』の当事者である“兄妹”なのよ。
実際の被害者は琴美ちゃんのほうだけど、海堂くんはそんな琴美ちゃんの心に寄り添い、琴美ちゃんと同じように傷ついた……まさに兄妹愛よね、うん」
頭の中で何を考えているのか、それとも何も考えていないのか、不意に姉の話が途切れた。
よほどぼんやりとしているのか、姉の視線は床に集中していた。
いや、目を向けているはずの床すらも見ていないくらい、姉はぼんやりとしていた。
「……それで?」
ぼくが話の続きを姉に促すと、姉は身動ぎをしたかと思えば、こちらに顔を戻した。
姉は自分を落ち着かせるように深呼吸をしてから、再び話を続けた。
「事の始まりは、琴美ちゃんが中学校からの帰り道、高架下で通り魔に襲われたところから始まるの。
彼女は確かに通り魔によって殺された。ナイフで胸を刺され、殺されてしまった。
けれど、琴美ちゃんは人間ではない存在として蘇生した。不完全な死者として、中途半端に蘇生してしまった。
最初、それを聞いた海堂くんは琴美ちゃんの話を信じず、琴美ちゃんが友達とともに動物を殺したのかと、彼は自分の妹を疑っていた。
だけど、それから三日後のこと、琴美ちゃんの担任教師や同級生、琴美ちゃんのことを知る生徒たちは彼女のことを忘れてしまったの。
ただ一人、琴美ちゃんと深い親交のあった青柳奈央ちゃんという同級生を除いて、全員が琴美ちゃんのことを忘れてしまった。
その日以降、琴美ちゃんは学校を休み、両親や海堂くんはこれを新手の“いじめ”と認識し、学校に強く抗議したそうよ。
でも、それで悲劇が収まったわけじゃない。
この騒動から二週間後、今度は両親が琴美ちゃんのことを忘れてしまい、かわいそうな琴美ちゃんは家を追い出されたの。
海堂くんは琴美ちゃんを家から追い出すふりをして、琴美ちゃんとともに奈央ちゃんの家に行き、居候という形で奈央ちゃんの家に泊まることになったわけ。
海堂くんは高校を休み、その代わりに琴美ちゃんの話をよく聞き、不完全な死者になった彼女の話を信じた。
そして、海堂くんと奈央ちゃんは琴美ちゃんを救うため、それぞれ動き出した……」
このとき、またも姉はぼんやりと床を眺め始め、自分が話していることをすっかり忘れてしまったらしい。
じれたぼくは「姉さん!」と声を荒らげた。
それで姉は我に返り、ぼくらに謝ると、今度はシャキッとした様子で話を続けた。
「けれど、そう現実は甘くなく、海堂くんたちは万策尽きてしまい、まさにお手上げ状態。
奈央ちゃんの家に居候してから二週間後、ついに奈央ちゃんまでもが琴美ちゃんのことを忘れてしまったの。
こうして二人は居場所を失ってしまい、苦渋の決断だったけれど、海堂くんは両親を脅すことで、琴美ちゃんを坂上家に戻したのよ。
それから三日後、ついに海堂くんも琴美ちゃんを忘れかけ、もはや大切な人くらいにしか覚えていなかった。
琴美ちゃんのほうも姿が消えかかっていて、時空から存在を抹殺される寸前だった。
で、それからの話は……」
そこで姉は話をやめ、そろそろとぼくを見た。
今度のぼくは声を荒らげるつもりはなく、姉が話を続けるのをじっと待った。
けれど――。
「ごめんちゃい。琴美ちゃんが助かった理由、実は海堂くんから聞いていないのよ。
あいつ、そこからは話してくれなかった。許してね」
姉は舌をペロッと出し、おどけてみせた。
もちろん、真剣に話を聞いていたぼくはカチンときたため、舌を出す姉をにらみつけた。
ここまでぼくらに話しておきながら、オチを知らないとは、一体どういうつもりなのだろう。
あわてたように姉は「この話の続きだけど、それは海堂くんに聞いてみて。あいつなら、翔たちの力になってくれると思うから、だから――あ、でもきょうはもう聞くのはダメよ。きょうはあんたのために、海堂くんとケンカをしてまで家に帰ってきたんだからね。あいつ、まだ怒っているかもしれないから、今は電話ダメ。あ、でもでも、あとで翔に海堂くんのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)アカウントを教えてあげるから、それで我慢して。ね?」とぼくを懸命になだめた。
「……ちなみに訊くけど、姉さんは海堂さんとケンカをする前、一体何をしていたのさ」
ずばり、ぼくが姉に真実を確認すると、姉は電光石火のごとく、こちらの頬を拳で軽く殴った。
たとえ、姉が殴るのを手加減したとしても、これは姉が弟にする家庭内暴力に違いなかった。
「何をするのさ、姉さん。痛いじゃないか!」
「このセクハラ弟、成敗よ、成敗!」
ぼくらのケンカが激しくなる前に、そばにいた神崎刑事と佐竹刑事が、ぼくらのケンカを仲裁してくれた。
ぼくらは二人になだめられ、どうにか落ち着いた。
神崎刑事はやけに咳払いをしてから、
「お嬢ちゃんの言うとおり、『兄妹と忘却の死者蘇生事件』の当事者は坂上琴美と坂上海堂、この二人だ。
実を言うと、おれたちはこの二人と少し個人的な付き合いがあってな。まあ、ちょっとした関係だと思ってくれて構わない」
と、こちらの興味を引く言い方をした。
「どういう関係です?」
すっかりぼくは刑事相手にする口調に戻り、ずばり神崎刑事に訊いてみた。
けれど、神崎刑事は質問に答えることはせず、そのまま話を進行させた。
「そういうわけだけどな、小僧。倉木夏奈はこれらを聞いても、お前さんたち仲間には幻想事件のことを話したくないそうだ。
無論、倉木夏奈はおれたちがお前さんの家を訪れたという事実を知らない。……どうするよ、小僧」
神崎刑事はさらりと重要な情報をこちらに言うだけではなく、ぼくに次の一手をどうするのか、興味ありげに訊いてきた。
さらに佐竹刑事のほうも、
「これを受けて、翔くんはどうするのでありますか。
倉木夏奈を含めた仲間に真実を伝えますか、我々の捜査に協力してくれますか。さて、どうするのです」
と挑戦的な笑みを浮かべた。
ぼくは佐竹刑事が感情を顔に出したことに驚きながらも、ちゃんと彼らの質問に答えた。
「いえ、あなたたちに会って話を聞いたことですが、仲間には秘密にします。じゃないと、夏奈さんの面目がないですからね。
ここぞ、という期が訪れ次第、仲間には真実を伝えますよ。
それから、これは仲間の代表でぼくが答えます。
――ぼくらはあなたたちの力を必要としない。
ぼくらの問題はすべて、ぼくらがケリを付けてみせます。
だからあなたたちも、これ以上の説明はぼくらにしないでください」
大見得を切ったぼくの言葉に、姉は笑みを漏らした。
神崎刑事と佐竹刑事は互いに目を見開き、息を呑んだ。
が、すぐに神崎刑事と佐竹刑事は元の表情に戻った。
「本官は翔くんのことを少し誤解しておりました。
見事、この幻想事件を解決してください、大浦翔くん」
「小僧。いや、翔。お前さんがおれたちの力を要らないというのなら、最後までやってみろ。
後悔のないよう、最後まであがいてみせろ。
おれたちの代わりに幻想事件を……この悲劇に終止符を打て。いいな、翔?」
ぼくは二人組の刑事の言葉に対し、力強くうなずいた。
最後、神崎刑事と佐竹刑事はぼくらに名刺を渡してから、大浦家をあとにした。
長い長い取り調べだった。
ぼくは必死になって、佐竹刑事の言葉を否定した。
彼の言葉を否定しなければ、本当に夏奈さんを忘れてしまいそうで……時空が夏奈さんを抹殺してしまいそうで、とにかく怖かったからだ。
しかし、佐竹刑事は容赦なく首を横に振った。
「確かに、先例の『兄妹と忘却の死者蘇生事件』は、実際にそのような結末を迎えたわけではないのが現実です。
あれは事件の当事者である方たちの奮闘により、すべての人間が不完全な死者の存在を忘れることを防ぎました。
時空が当人の存在を抹殺する事態を回避しました。
なので、これを結末として扱うのはいささか間違っている、とは本官も思います。
ですが、これはキセキでも起こらない限り、“確実に起こる結末”なのですよ。
ええ、そうです。先例の事件の当事者たちは、起こるはずのない“キセキを起こした”のであります。
これはいわば、キセキのようなロマンのあるものではなく、人間の禁忌と呼ばれる類のものです。
時空に対する冒涜、と言ってもいいでしょう」
長たらしい佐竹刑事の説明は、こちらのイライラを助長するばかりで、なんの意味もなかった。
「はいはい、それで? 例の幻想事件と同一の事例だという確証はあるのかよ。
そんな意味のない説明を聞いても、ぼくは信じないぞ」
少々心苦しかったが、ぼくは佐竹刑事の説明を一蹴し、生意気にも腕を組んだ。
「おいこら、小僧。年上のおれたちにたてつき、腕を組むとはいい度胸をしているじゃないかよ、えぇ? てめえ、気に入ったぜ」
神崎刑事はそう言いながらも、怒りのためか、目が血走っていた。
ぼくはさりげなく腕を組むのをやめ、さっきから何も発言していない姉のほうを見た。
ぼくが姉に目を向けると同時に、姉もぼくのほうを見た。
それでようやく気付いたのだが、姉は何かを言いたそうな様子をしていた。
ぼくが手を使って話すように促すと、姉は深いため息をついてから、いやに神妙な顔で「翔、姉さんの言葉をよく聞いて。まじめに聞いて。それだけが約束じゃない、姉さんの言葉を絶対に疑ってはダメよ。だって、これは真実なんだから。これはあの二人の身に起こった実際の事なんだから、絶対に疑うことはしないで」と前置きを真剣に述べた。
ぼくはためらいながらも、大きくうなずく。
姉もぼくにうなずき返すと、張りのある声で語り出した。
「あたしの彼氏、坂上海堂くんと海堂くんの妹、坂上琴美ちゃんはね、刑事さんたちの言う『兄妹と忘却の死者蘇生事件』の当事者である“兄妹”なのよ。
実際の被害者は琴美ちゃんのほうだけど、海堂くんはそんな琴美ちゃんの心に寄り添い、琴美ちゃんと同じように傷ついた……まさに兄妹愛よね、うん」
頭の中で何を考えているのか、それとも何も考えていないのか、不意に姉の話が途切れた。
よほどぼんやりとしているのか、姉の視線は床に集中していた。
いや、目を向けているはずの床すらも見ていないくらい、姉はぼんやりとしていた。
「……それで?」
ぼくが話の続きを姉に促すと、姉は身動ぎをしたかと思えば、こちらに顔を戻した。
姉は自分を落ち着かせるように深呼吸をしてから、再び話を続けた。
「事の始まりは、琴美ちゃんが中学校からの帰り道、高架下で通り魔に襲われたところから始まるの。
彼女は確かに通り魔によって殺された。ナイフで胸を刺され、殺されてしまった。
けれど、琴美ちゃんは人間ではない存在として蘇生した。不完全な死者として、中途半端に蘇生してしまった。
最初、それを聞いた海堂くんは琴美ちゃんの話を信じず、琴美ちゃんが友達とともに動物を殺したのかと、彼は自分の妹を疑っていた。
だけど、それから三日後のこと、琴美ちゃんの担任教師や同級生、琴美ちゃんのことを知る生徒たちは彼女のことを忘れてしまったの。
ただ一人、琴美ちゃんと深い親交のあった青柳奈央ちゃんという同級生を除いて、全員が琴美ちゃんのことを忘れてしまった。
その日以降、琴美ちゃんは学校を休み、両親や海堂くんはこれを新手の“いじめ”と認識し、学校に強く抗議したそうよ。
でも、それで悲劇が収まったわけじゃない。
この騒動から二週間後、今度は両親が琴美ちゃんのことを忘れてしまい、かわいそうな琴美ちゃんは家を追い出されたの。
海堂くんは琴美ちゃんを家から追い出すふりをして、琴美ちゃんとともに奈央ちゃんの家に行き、居候という形で奈央ちゃんの家に泊まることになったわけ。
海堂くんは高校を休み、その代わりに琴美ちゃんの話をよく聞き、不完全な死者になった彼女の話を信じた。
そして、海堂くんと奈央ちゃんは琴美ちゃんを救うため、それぞれ動き出した……」
このとき、またも姉はぼんやりと床を眺め始め、自分が話していることをすっかり忘れてしまったらしい。
じれたぼくは「姉さん!」と声を荒らげた。
それで姉は我に返り、ぼくらに謝ると、今度はシャキッとした様子で話を続けた。
「けれど、そう現実は甘くなく、海堂くんたちは万策尽きてしまい、まさにお手上げ状態。
奈央ちゃんの家に居候してから二週間後、ついに奈央ちゃんまでもが琴美ちゃんのことを忘れてしまったの。
こうして二人は居場所を失ってしまい、苦渋の決断だったけれど、海堂くんは両親を脅すことで、琴美ちゃんを坂上家に戻したのよ。
それから三日後、ついに海堂くんも琴美ちゃんを忘れかけ、もはや大切な人くらいにしか覚えていなかった。
琴美ちゃんのほうも姿が消えかかっていて、時空から存在を抹殺される寸前だった。
で、それからの話は……」
そこで姉は話をやめ、そろそろとぼくを見た。
今度のぼくは声を荒らげるつもりはなく、姉が話を続けるのをじっと待った。
けれど――。
「ごめんちゃい。琴美ちゃんが助かった理由、実は海堂くんから聞いていないのよ。
あいつ、そこからは話してくれなかった。許してね」
姉は舌をペロッと出し、おどけてみせた。
もちろん、真剣に話を聞いていたぼくはカチンときたため、舌を出す姉をにらみつけた。
ここまでぼくらに話しておきながら、オチを知らないとは、一体どういうつもりなのだろう。
あわてたように姉は「この話の続きだけど、それは海堂くんに聞いてみて。あいつなら、翔たちの力になってくれると思うから、だから――あ、でもきょうはもう聞くのはダメよ。きょうはあんたのために、海堂くんとケンカをしてまで家に帰ってきたんだからね。あいつ、まだ怒っているかもしれないから、今は電話ダメ。あ、でもでも、あとで翔に海堂くんのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)アカウントを教えてあげるから、それで我慢して。ね?」とぼくを懸命になだめた。
「……ちなみに訊くけど、姉さんは海堂さんとケンカをする前、一体何をしていたのさ」
ずばり、ぼくが姉に真実を確認すると、姉は電光石火のごとく、こちらの頬を拳で軽く殴った。
たとえ、姉が殴るのを手加減したとしても、これは姉が弟にする家庭内暴力に違いなかった。
「何をするのさ、姉さん。痛いじゃないか!」
「このセクハラ弟、成敗よ、成敗!」
ぼくらのケンカが激しくなる前に、そばにいた神崎刑事と佐竹刑事が、ぼくらのケンカを仲裁してくれた。
ぼくらは二人になだめられ、どうにか落ち着いた。
神崎刑事はやけに咳払いをしてから、
「お嬢ちゃんの言うとおり、『兄妹と忘却の死者蘇生事件』の当事者は坂上琴美と坂上海堂、この二人だ。
実を言うと、おれたちはこの二人と少し個人的な付き合いがあってな。まあ、ちょっとした関係だと思ってくれて構わない」
と、こちらの興味を引く言い方をした。
「どういう関係です?」
すっかりぼくは刑事相手にする口調に戻り、ずばり神崎刑事に訊いてみた。
けれど、神崎刑事は質問に答えることはせず、そのまま話を進行させた。
「そういうわけだけどな、小僧。倉木夏奈はこれらを聞いても、お前さんたち仲間には幻想事件のことを話したくないそうだ。
無論、倉木夏奈はおれたちがお前さんの家を訪れたという事実を知らない。……どうするよ、小僧」
神崎刑事はさらりと重要な情報をこちらに言うだけではなく、ぼくに次の一手をどうするのか、興味ありげに訊いてきた。
さらに佐竹刑事のほうも、
「これを受けて、翔くんはどうするのでありますか。
倉木夏奈を含めた仲間に真実を伝えますか、我々の捜査に協力してくれますか。さて、どうするのです」
と挑戦的な笑みを浮かべた。
ぼくは佐竹刑事が感情を顔に出したことに驚きながらも、ちゃんと彼らの質問に答えた。
「いえ、あなたたちに会って話を聞いたことですが、仲間には秘密にします。じゃないと、夏奈さんの面目がないですからね。
ここぞ、という期が訪れ次第、仲間には真実を伝えますよ。
それから、これは仲間の代表でぼくが答えます。
――ぼくらはあなたたちの力を必要としない。
ぼくらの問題はすべて、ぼくらがケリを付けてみせます。
だからあなたたちも、これ以上の説明はぼくらにしないでください」
大見得を切ったぼくの言葉に、姉は笑みを漏らした。
神崎刑事と佐竹刑事は互いに目を見開き、息を呑んだ。
が、すぐに神崎刑事と佐竹刑事は元の表情に戻った。
「本官は翔くんのことを少し誤解しておりました。
見事、この幻想事件を解決してください、大浦翔くん」
「小僧。いや、翔。お前さんがおれたちの力を要らないというのなら、最後までやってみろ。
後悔のないよう、最後まであがいてみせろ。
おれたちの代わりに幻想事件を……この悲劇に終止符を打て。いいな、翔?」
ぼくは二人組の刑事の言葉に対し、力強くうなずいた。
最後、神崎刑事と佐竹刑事はぼくらに名刺を渡してから、大浦家をあとにした。
長い長い取り調べだった。
