●飛美奈。バスから降り、学校に続く道を勢いよく走る。
飛美奈のモノローグ「今日の私は、なぜだかわからないけど、昨日までとの私とは、少し違っていた。全身が軽い。いつもは重い空気が漂う学校までの道も、今は嘘みたいにスイスイ進んでいける。なぜそうなったのか…。それはあの人と…、細間先輩と知り合って、自分の中で何かが変わったような気がするからだ。…もちろん、何の根拠もないけど」
●飛美奈。下駄箱で靴を履き替える。
飛美奈(細間先輩…、少なくとも悪い人ではないよね。むしろすごくいい人。私でもあの人となら、恐怖せず仲良くできる気がする。……そういえば、なんで私と初めて会ってから様子がおかしくなったって沙良さんは言っていたけど、なんでだろう…?沙良さんたち心配していたし、今日聞いておこう)
●飛美奈。廊下を歩き、教室のドアを開ける。
●飛美奈が教室に入るなり、クラスメイトたちが一斉にざわつき始める。
飛美奈(あれ…?いつもは私が来ると、みんな静かになるのに、…なんか様子がおかしい)
●飛美奈。不思議そうな顔をしながら席に着く。

●お昼。飛美奈。お弁当を持って廊下を歩く。
細間「飛美奈!」
●飛美奈。声のした方へ振り返る。
●細間。階段を勢いよく降りてくる。
細間「飛美奈って、ここにある部屋でお昼食べているんでしょ?…その、俺も一緒に食べていい…かな…?」
飛美奈(…ふぇ!?)
細間「あっ。密室で2人っきりって、もしかして無理…?」
●飛美奈。その場で動かなくなる。
飛美奈(一緒にお弁当食べるくらいなら、私でもできるかな?断るのも、なんか失礼だよね)
●飛美奈。顔を見上げて細間の顔を見る。
飛美奈(…やっぱり、怖いかも。先輩には悪いけど、いつも通り一人で食べたいな。私には、断る権利だってあるよね。そうだ、…私は一生孤独に生きていかなきゃいけないんだから…)
細間「頼む!」
●細間。両手を合わせて飛美奈を見つめる。
飛美奈(えっええぇ!?)
細間「俺も誰かとお昼を食べたことなくってさ。一緒に食べよ、ひ・み・な」
●細間。ウインクをし、小首を30度右に傾ける。
飛美奈(………何、今の!?あざといってやつ…?細間先輩、こんなことできるんだ…)
飛美奈「わ…わかりました。…こっち、来てください」
細間「やったー!」
●飛美奈と細間。物置部屋に入る。
●沙良。遠くの教室の陰から部屋に入る飛美奈と細間を目撃し、口を開いて驚く。

●物置部屋。飛美奈。隅にあった机を一つ両手で持ち、運ぼうとする。
細間「あっいいよ、俺が運ぶから」
飛美奈「…でも」
細間「お願いした俺が何もしないってのは、ダメな気がするからね」
●飛美奈。持っていた机を下ろす。
●細間。机をもう一つの机の正面に少し離れた距離に置く。
細間「これくらいの距離なら、大丈夫だよね?」
●飛美奈。静かに頷く。
●飛美奈と細間。椅子に座り、弁当箱を開ける。
細間「いっただっきまーす!」
飛美奈(細間先輩、かなり元気な人だな)
●飛美奈と細間。弁当を食べだす。
細間「そういえばさ、飛美奈って人と関わること苦手なんだって?」
●飛美奈。食べる手が止まる。
細間「あっ、急にこんなこと聞いてごめんね。ただその、知っとかなきゃってさ。飛美奈のことについて」
飛美奈(私のことについて…?私のことなんか聞いて、どうするんだろう?)
細間「俺、飛美奈と仲良くなりたいからさ」
飛美奈「えっ…」
●飛美奈と細間の間に静寂が訪れる。
飛美奈(驚きすぎて、思わず声が漏れちゃった…。私と仲良くなる!?私が人が苦手だってことは知っているみたいなのに、どうして私に近づこうとしてくるんだろう…?…っていうか、なんで私!?)
細間「実は俺さ、しっかり友達ができたことがないんだよね。飛美奈となら、仲良くなれる気がしてさ」
●飛美奈。困惑した表情を見せる。
飛美奈「いや、でも…。私なんかじゃ…なくても、もっと他に…気が合う人、たくさんいると思いますよ…」
細間「いやー。なんかさ、一昨日飛美奈と出会ったときにさ、なんかこうビビッと来たんだよね」
飛美奈「びっ…びびっと…?」
細間「運命ってやつだよ。飛美奈と目が合ったとき『このことは仲良くなれる』って感じたんだ」
飛美奈「えっ…。いや、そんな…」
細間「確かに、そんな根拠もないことで感じるなって思うだろうけど、俺は本気で君と友達になりたいんだ。その気持ちは嘘じゃないよ」
飛美奈「いや、そうじゃなくて。私なんかと…仲良くなっても、何も…いいこと、ないですよ…」
細間「そんなことないって。飛美奈はそういう大人しいところがすごくかわいいよ」
飛美奈「いや、そんな…」
飛美奈(静かなところを褒められたのなんて、初めてだな…)
細間「じゃあさ、せめて連絡先だけでも交換しよ!」
飛美奈「えっ…。えっと…」
飛美奈(この感じじゃ、断ってもダメそうだな…)
飛美奈「わ…わかりました」
細間「よかったぁ。やっぱり電話とかメッセージのやりとりなら、直接顔を合わせないから大丈夫なの?」
飛美奈「わかりません…、全然使ったことないので。…家族とも、やりとりしたことあんまりないですし」
細間「そっか。…ということは、俺とたくさん話せるってわけだね!」
飛美奈「えっと…。ちゃんと使えるかは、わかりませんけど…」
細間「大丈夫だって。電話もメッセージも、使い方を覚えるのは簡単だし」
飛美奈「いや、だから…。そうじゃなくて…」

●ファミリーレストランの店内。フードの少女のテーブルにハンバーグが運ばれてくる。
店員「おまたせしました。特製デミグラスソースビッグハンバーグです」
●フードの少女。しいたけ目でハンバーグを眺める。
フードの少女「やっぱお昼はこれくらい肉厚なものをたべないとね!」
●フードの少女が左耳につけている通信機から着信音が鳴る。
●フードの少女。着信機のボタンを押す。
フードの少女「何?今からお昼ご飯食べるところなんだけど」
ロボットの声『オ前、対象ノ監視ハドウシタ?マサカ、サボッテイルノデハナイヨナ?』
フードの少女「1日や2日ぐらい、見とかなくたっていいでしょ。本格的に動くのは、時が動き出す例の日で…」
ロボットの声『運命トハ、日々変ワッテオクモノダ。報告通リノ出来事ガ起キルトハ限ラナイ。ダカラ常二監視ガ必要ナノダ。我々ノ中デ、常二表二出レルノハ、オ前ダケナノダカラ…』
フードの少女「うるさいなぁ…。てか、あの子は今学校にいるから、どのみち上手く監視できないよ。じゃあね!」
●フードの少女。通信機のボタンを押し、ナイフとフォークを手に取る。
フードの少女「あいつの説教なんか忘れて、私は自由に過ごそっと!」

●学校の物置。飛美奈。食べ終わった弁当箱を閉じる。
飛美奈(あっ、そうだ!あのことを聞いておかないと)
飛美奈「あっあの、一つ、聞きたいことがあるんですけど…」
細間「何?何でも聞いていいよ?」
飛美奈(いや、何でもって…。まあ、いいか)
飛美奈「なんか、その…。細間先輩の様子が急におかしくなった…て、聞いたんです」
細間「えっ?俺が?」
飛美奈「一昨日のお昼すぎから…急に静かになったって、いろんな子が…心配していたらしくて。私が…何か関わっているんじゃないかって、昨日聞かれたんですけど…」
細間「ああ、それで昨日あの子たちに詰め寄られていたわけね。てっきりいじめの現場を目撃しちゃったと思って…」
飛美奈「いえ、ただあのときは、聞かれていただけで…」
細間「そっか。……ていうか、そんなに俺様子おかしくなってたの?」
飛美奈「いや…。私も話を聞いただけで、実際にその時の細間先輩を目撃したわけじゃないので、私からは何とも…」
細間「そっか…。まあ、自分がいつもの感じじゃないって自覚はあったよ」
飛美奈「何か、理由があったんですか?」
細間「知りたいの?」
飛美奈「いえ、その…。あの子たちが聞きたがっていたので…」
細間「そっか…。うーん、どう説明すればいいかな…」
●細間。腕組みをしてしばらく考える。
細間「…内緒ってのは、だめ?」
飛美奈「…え?」
細間「ごめんね。いまは上手く言えないや」
飛美奈「そう、ですか…」
細間「ただ一つ言えるのは、飛美奈は何も悪くないってこと」
飛美奈「な、なるほど。わかりました…」
●飛美奈と細間。部屋のドアを開けて廊下へ出る。
飛美奈(私は悪くないか…。てことは、私と会ったあとに細間先輩の身に何かが起きて、それが原因ってこと?…それはそれでなんか心配だな…)

●放課後。飛美奈。教室から廊下に出る。
●飛美奈の携帯の通知音が鳴る。
●飛美奈。携帯電話をカバンから取り出し電源を入れると通知に細間からのメッセージが表示される。
細間【飛美奈!今日一緒に帰れる?】
●飛美奈。メッセージを眺めながら固まって考える。
飛美奈(まさか昨日みたいに、手を繋いで走り出すってことはないだろうけど…。相手が細間先輩とはいえ、誰かと一緒だとやっぱり緊張しちゃうんだよな…)
●飛美奈。メッセージをもう一度眺める。
飛美奈(無理だって先輩に直接言いに行こう。今の私なら、できるはず!)
●飛美奈。廊下を歩きだし、階段の前まで来る。
飛美奈(3年生の教室って、確か四階だったよね?)
●飛美奈。階段を登りだす。

●沙良たちの教室。5人の女子生徒たちが沙良を囲むように立ち沙良と話している。
女子生徒1「本当なの?それ」
沙良「確かに見たの。細間先輩と宮々さんが一緒に部屋に入っていくところを。宮々さんは、少しぎこちない感じだったけど」
女子生徒2「その部屋ってたしか物置なんだよね。なんでそんなところに入っていったの?」
女子生徒3「宮々さんって誰かが近くにいる状況じゃ食事ができないんだよね、たしか」
女子生徒2「えーなにそれ、かわいそうなんだけど」
沙良「それにますます謎じゃない!?一人で食べるためにその部屋に入るのに、なんで細間先輩も一緒なわけ!?細間先輩って、誰とも深く接しないまさに王子様って感じの人なのに、なんで宮々さんは一緒の部屋でお昼を食べる中にまでなっているわけ!?…まさか、宮々が細間先輩を脅して…」
女子生徒1「それだけはないと思うよ…」

●飛美奈。階段を登る足を止める。
飛美奈(自分から向かうとなると、やっぱり怖いな…)
●飛美奈。携帯電話を取り出す。
飛美奈(メッセージで来た連絡には、メッセージで返したほうがいいのかな…?…でもこういう大事なことは、面と向かって言ったほうがいい気がするし…。いやでも…)

●飛美奈の回想。細間が飛美奈の携帯電話を操作し、画面を飛美奈に見せる。
細間「はい!俺の電話番号とメッセージアプリのアカウントを登録しておいたよ。これで話したいときにいつでも話せるからね」
飛美奈「あっ、ありがとうございます。わざわざ、私なんかのために…」
細間「いやいや。いざというときのために、連絡できる相手を最低1人は持っておいたほうがいいんだよ。家族と普段連絡しないならなおさらね」
飛美奈「でも、私。今まで1人でいろいろやってこれたので、大丈夫だと思うんですけど…」
細間「これからもそうとは限らないよ?手軽に連絡できるんだから、もっと俺を頼っていいんだよ?それに…、飛美奈と話しているとすごく楽しいし!」

飛美奈(笑顔であんなこと言ってたし、メッセージを使わないと失礼だよね。…でも、初めて送るメッセージが誘いを断るメッセージっていうのもなんか失礼な気がするし、でも今日は1人で帰りたいし…。うーん、どうしよう…)
●飛美奈。何気なく下の階段を見ると、下にいた男子生徒と目が合う。
飛美奈(だっ誰!?)
●男子生徒。素早く階段を駆け下りる。
飛美奈(細間先輩かと思ってびっくりした…。たまたま階段にいた人か…。なんで急に私を見て逃げるように走り出したんだろう…?)
●飛美奈。そのままぼーっと下の階段を眺める。
飛美奈(今までの私も、相手から見ればあんな感じだったのかな…?ずっと申し訳ないことをしてたんだな…)

●1年生の教室。
沙良「あーもう!ムズムズする!宮々に色々と聞かないと気がすまない!」
女子生徒1「沙良、1回落ち着こう?」
女子生徒2「そうだよ。そんな大事件が起きたわけじゃないんだから…」
沙良「学校の王子様的存在のイケメン男子が物静かな少女と、手をつないで走り出したり、同じ部屋で一緒にお昼ご飯を食べたりする。これはもう、正真正銘の大事件だよ!」
女子生徒1「確かにそうかもしれないけどさ…」
沙良「みんないくよ!」
●沙良。廊下に向かって歩きだす。
女子生徒3「ちょっと!」
女子生徒4「待ってよ沙良!」
女子生徒1「これはもう、止めても無駄だね…」

●飛美奈。ゆっくりと階段を登る。
●階段下にいた男子生徒。ゆっくりと飛美奈を追うように階段を登る。
飛美奈(落ち着け私。落ち着けば大丈夫。『今日は1人で帰りたいので、申し訳ないですが誘いは断らせていただきます』って言えばいいんだ。細間先輩ならちゃんとわかってくれるはず…)
●細間。廊下から現れる。
飛美奈(あっ、ちょうど会えた。よし、しっかり断ろう…)
●細間。焦る顔をする。
細間「飛美奈後ろ!」
飛美奈「えっ…?」
●飛美奈。後ろを振り返ると、後ろにいた男子生徒と目が合う。
細間「兎唯、お前…」
●男子生徒。ニヤつきながら細間のほうを見る。
飛美奈「えっ…。こっ…この人は…?」
細間「離れろ!そいつ、飛美奈のスカートの中を覗こうとしてるんだよ!」
飛美奈「えっ!?キャア!」
●飛美奈。左手でお尻を押さえながら、細身の後ろに逃げる。
細間「兎唯。お前、まだこんなことやってんのか!?」
兎唯「いつくになってもこういうのは楽しいんだよ。そんなことより湯睦真」
細間「なんだよ」
兎唯「お前学校中でものすごい噂になってるぞ。学校のアイドルで誰とも友好関係を築かない、まさに高嶺の花である細間湯睦真様が、1年の女子と手をつないで仲良く走っていたと。すごくかわいい子なんだろうと思って、探し出してちょっとスカートの中を見ようとしたってわけ。…まあ、予想通りかわいい子だったね」
細間「兎唯。お前なぁ…」
●細間。顔の前で右手の拳を強く握る。
細間「…一発殴らないとわからないみたいだな」
兎唯「くだらない冗談は寄せって」
細間「今の俺が冗談を言っているように見えるか?」
兎唯「……え?」

●下の階の廊下。
●沙良。早歩きで廊下を進む。
●5人の女子生徒達。早歩きで沙良にあとに続く。
女子生徒2「沙良。聞いても宮々さんが困るだけだよ」
女子生徒3「そうそう。昨日も困惑しているみたいだったし、2日連続でこんな集団に言い寄られたら、宮々さんからしたら拷問だよ」
沙良「だとしても、聞かないと気がすまない…。どうやって細間先輩と仲良くなったのかを!」
女子生徒3「一番聞きたいことそれなの!?」
女子生徒4「まあ確かに、私達がずっと知りたかったことではあるけども…」
女子生徒1「そもそもさ、宮々さんが今どこにいるのか知ってるの、沙良?」
沙良「わかんない!」
女子生徒1「わかんないのに今まで歩いてたんだ…」
沙良「最後の授業が終わってからそんなに経っていないから、まだ学校にいるはずなんだよ。よし!こうなったら手分けして…」
●沙良たちの前にツインテールの少女が突然飛び出してくる。
●沙良と女子生徒たち。驚いた顔でツインテールの少女を見つめる。
ツインテールの少女「あんた達、飛美奈に近づく気?」
沙良「えっと…、あなた誰?どこのクラスの子?」
●ツインテールの少女。ゆっくりと腕まくりをする。
ツインテールの少女「飛美奈に近づくなら、容赦しないからね…」

●細間。拳を握ったまま兎唯にゆっくりと近づいていく。
細間「お前に一回教えとかなきゃなと、思っていたんだよ…。俺を怒らせたら、どうなるかってことをなぁ!」
飛美奈(や、やばい…。細間先輩、本気で怒っているよ…。そりゃ怒るのもわかるけど…、ものすごく、怖い…)
細間「兎唯…、その場から動くんじゃねえぞ…」
兎唯「ふ…ふざけんな!」
●兎唯。急いで階段を駆け下りて姿を消す。
飛美奈(逃げた…。…よかった)
●細間。右手を下ろし、飛美奈の方へ振り向くと笑顔を見せる。
細間「どうだった?俺の迫真の演技は!」
飛美奈「…え?」
細間「飛美奈のことをしっかり守れたし、今の俺すごかったよね?ねぇ?」
●細間。笑顔で飛美奈に顔を近づける。
飛美奈(ちょっと待って。じゃあさっき怒っていたのって全部…)
細間「我ながらすごかったよね。ノーベル賞を受賞しちゃうレベルだったでしょ?」
飛美奈「それを言うなら、アカデミー賞です…」
細間「あっ、そっか…。アハハ…」
飛美奈「あと…、顔近いです…」
細間「あぁ、ごめんごめん!」
●細間。飛美奈から一歩下がる。
細間「俺、面倒事に巻き込まれたときは、いつもこうやって相手をビビらせて、なんとかしていたんだよね。…その結果、すぐキレるヤバい奴ってついていたらしいんだけど…」
飛美奈「そうだったんですか…。でも今は、助けていただいて、本当に感謝しています」
細間「ありがとう。何か困ったことがあったら、いつでも頼ってね!…流石に、本当に喧嘩が強いやつが現れたら俺も逃げるしかと思うけど…」
飛美奈「まぁ、さすがに、そうですよね…」
細間「俺、実際に殴り合いの喧嘩とかしたこと無いからさ。…ま、いきなり殴りかかってくるような人は、この学校にいるわけないと思うけどね」

●下の階の廊下。女子生徒2。吹き飛んで壁に激突する。
女子生徒1「沙良!こいつ、やばいよ!逃げたほうがいいって!」
●沙良。衝撃が走った顔をしてその場に立ち尽くす。
●沙良の周りに4人の女子生徒が倒れている。
ツインテールの少女「全員、ただでは返さないからね…」
●ツインテールの少女。女子生徒の右腕をつかんで背負投をする。
女子生徒1「ぎゃあああああああ!」
●女子生徒1。沙良のいる方と反対側に投げられて叩きつけられる。
●沙良。ゆっくりと後退りし始める。
沙良「あんたなんなの!?口調からして宮々さんのこと知っているみたいだけど。ていうか、急に暴力振るうことある!?」
●ツインテールの少女。沙良の方を見る。
沙良「な…何よ…」
●ツインテールの少女。髪の結べを片方解き、勢いよく沙良に向かって飛び掛り、沙良の溝内に思いっきりパンチを食らわせる。
沙良「ウグッ…!」
●沙良。おなかを押さえて倒れ込む。
ツインテールの少女「言っておくけど、飛美奈は1人で過ごしている時が1番幸せなの。だから…もう関わろうとしないで」

●飛美奈と細間。校門から出て、並んで歩く。
細間「あの兎唯って奴とは小学校から一緒だったんだよね。…まあお互い顔と名前を知っている程度の仲だったけど。んであいつは昔からいっつも女の子のスカートの中を見ようとするやつでさ、高校生になってもそれは変わらないみたいでね」
飛美奈「そうだったんですか…」
細間「それで、なんで飛美奈はあそこにいたわけ?メッセージに返事がないから、探しにいいこうとしてたとこだったんだけど」
飛美奈「あの…、私、一人で帰ろうとしたんです。決して細間先輩に原因があるとかじゃないんですけど、やっぱりまだ恐怖心があるみたいで…」
細間「そっか。でも兎唯みたいな奴が現れたらどうするの?」
飛美奈「そっ…それは…」
細間「やっぱり俺がついていたほうがいいと思うんだ」
飛美奈「え…?」
細間「一生孤独に生きていくって言ってたけど、それって飛美奈にとってかなり危険な生き方だよ。1人が好きとかならまだしも、人が怖いんじゃ襲われたり嫌なことされたとき困るじゃん」
飛美奈「いや…、今までそんなことはなかったので、大丈夫かと…」
細間「さっきまさに起こったよね?」
飛美奈「それは…」
細間「まあ要は、頼れる人間を1人くらいつけておいたほうがいいってこと。飛美奈にいつ何が起きるかわからないでしょ?」
飛美奈「でも…」
細間「でもじゃない!少なくとも今日、俺と一緒にお昼は食べれたでしょ?」
飛美奈「……」
飛美奈(ずっと1人で大丈夫だって、勝手に思ってた。私は誰とも仲良くなれない人間として作られたんだって、そう思い聞かせてきた。友達が欲しいとも思わなかった。寂しいとも思わなかった。…けど)
●飛美奈。細間と目を合わせる。
●細間。笑顔を見せる。
飛美奈(あの瞬間。初めて、1人じゃなくてよかった…って思った。…もしかして細間先輩となら、この先の運命を…変えられるのかもしれない)
飛美奈「わかりました。これから自分の身に何かあったときは、先輩を頼らせていただきます」
細間「ありがとう。それに何かあったときだけじゃなく、基本ずっと2人でいようよ。俺たちもう友達なんだしさ」
飛美奈「…え?それ、どういう…」
細間「一緒に登下校して、一緒にお昼食べて、一緒に休日を過ごしたりして…」
飛美奈「いや、それはちょっと…。ハードルが高いと…」
細間「大丈夫!最初は周りも不思議に思うだろうけどすぐわかってくれるだろうし、何より俺は初めてできた友達を大事にしたいんだ」
飛美奈「な…なるほど…」
●飛美奈と細間。静かに歩き続ける。
細間「そういえばさ」
飛美奈「はっはい、なんですか?」
細間「俺、昨日。なんで急に走り出したんだろう…?」
飛美奈「………え?」
飛美奈(まさか細間先輩。自分でもよくわからず走っていたってこと!?しかも私と手をつないで!?)
飛美奈「それはむしろ、私が知りたいです…」
細間「だよね…。なんかこんなこと聞いてごめんね…」
飛美奈「いえいえ…」
●飛美奈と細間。バス停の前に着く。
飛美奈「そういえば、細間先輩の家って駅の近くなんですか?」
細間「そうだよ。バスで駅の近くまで乗って、そこから歩いてるんだ。…いつも1人でね。でも今日からは飛美奈がいっしょだ!わ~い!」
飛美奈(私、これから本当に先輩と一緒に行動していく感じなんだ)
細間「休みの日もメッセージでやりとりできるし、俺たちずっと一緒にいるようなもんだね!」
飛美奈(しかも距離感近いし…。私にはいろいろと荷が重いよ…。でも…)
飛美奈「私も、なんだか楽しくなってきました…!」
細間「そっか」
●バス停にばすが到着する。
細間「……まあ、俺が飛美奈と一緒にいたいだけなんだけどね……」
飛美奈「えっ?今なんて言ったんですか?」
細間「いっいや!なんでも…」
●飛美奈。不思議そうな顔をする。
●飛美奈と細間。バスに乗る。

●路地裏にある隠し部屋。フードの少女。扉を開けて部屋に入ってくる。
フードの少女「ただいま〜」
帽子男「もう19時過ぎだぞ。何をしていたんだ?」
フードの少女「いや、それは…」
ロボット「オソラクハ商店街デ食ベ歩キヲシテ、ソノ後ゲームセンターデヒタスラ遊ンデイタノダロウ」
フードの少女「…バレてたか」
帽子男「おい、遊んでんじゃねぇか」
フード「まあまあ…。まだ本気出すときじゃないしさ」
●フードの少女。椅子に座る。
フードの少女「あっそうだ!頼んでおいたもの買ってくれた?」
ロボット「アア、コレダナ」
●ロボット。おしるこの缶2つ、ホットココアの缶、コーラの入っているペットボトルをテーブルの上に置く。
フードの少女「私が頼んだのコーラだけなんだけど。なんでよりによって温かいものが3つも余計にあんの?」
ロボット「アノ自動販売機、旧式ダッタゾ。ボタンヲ押スノニ苦労シタ」
フードの少女「あんた最新型の高性能マシンじゃないの?まあああいう自販機見たのは初めてだろうけどさ」
帽子男「お前は見たことあるの?」
フードの少女「うん。地元にあったからね、あれ」
帽子男「お前の地元どこだっけ?」
フードの少女「静岡だよ」
ロボット「ツマリ静岡ハ、文明ガソンナニ進ンデイナイトイウワケカ」
フードの少女「うるせぇ、黒はんぺんにするぞ」
●フードの少女。おしるこの缶を手に取り、ふたを開けて飲む。
帽子男「結局飲むのかよ、それ」
フードの少女「プハァ…」
●フードの少女。おしるこを飲み干し、缶をーテーブルに置く。
フードの少女「いよいよ来週だよね、時が動き出すのは」
ロボット「サボッテイイノモ、今週限リダカラナ」
フードの少女「わかってるって…」
●フードの少女。椅子から立ち上がり、近くの壁を見つめる。
フードの少女(なんか奇跡でも起こらないかな…)

●飛美奈の家の最寄り駅のホーム。飛美奈電車から降りる。
●飛美奈の携帯から通知音が鳴る。
●飛美奈。カバンから携帯電話を取り出し、電源をいれると細間からのメッセージが表示される。
●飛美奈。表示されたメッセージをタップする。
細間【飛美奈!ちゃんと駅に着いた?】【何かあったらすぐ連絡していいからね!】【いつも使っている場所でも不審者が出ることあるかもしれないし】【休日もいっぱいお話したいな〜】【何か俺に聞きたいことあったりしない?だいじょぶそ?】
飛美奈(だから距離感近すぎるよ…。細間先輩…)
●飛美奈。メッセージを見ながら少し笑う。
飛美奈(なんかかっこいいっていうより、かわいい人だな…)