「あ、起きた」

朝から誰の声なんだ。

ここはどこ?私は誰…は行き過ぎで中二病感出るのでそこはやめておいた。

「昨日急に倒れるからマジでビビったんだからな。」

倒れた…?そうか。

私は自分のドジのせいで他人を巻き込んだんだ。

「お前ん家行こうとしたけど知らねぇし、個人情報探すのもよくねぇかなと思って俺の家に連れてきたけど。
どうする?帰るか?朝ごはんいる?」

…こいつには事情を話しておくべきなのだろうか?

「………?お~い。大丈夫か?生きてる?」

「おぅわっ⁉?」

「ははっ。生きてんね。朝からボーってするのは分かるけど人の話くらいは聞けよな。」

…急に顔を近づけないでほしい。困る。

「ご…ごめん」

また返事をし忘れると怒られそうなので、返事をしなければ!と思って出した、第一声はこの言葉だった。

「ぜーんぜん。せっかくだしもっかい一から話始めようか?」

「え?」

「あ、起きた」

「え、スタートからなの⁇」

そこからなんだ。

と思って突っ込んだら朝陽がなぜかすごく爆笑していた。

「向葵って面白れぇやつなんだな!」

「…いや、ツッコミがうまいだけなの」

そんなことないよっ!///

みたいな女の子じゃないので全否定はできない。

「自分で言うんだ。」

そういってまた爆笑し始めた朝陽。

昨日も思ったけど変な人だ。

朝陽が笑い終わって部屋が静かになった時、鳴り響いたのは。

―私のお腹の音だった。

「はぅっ…!!」

今までで一番大きい音だったと思う。

一日ご飯を食べていないだけでこれほどお腹が鳴るとは……。

パッと前を見ると、朝陽がお腹を抱えて凄く笑っている。

「ねぇえ!!」

私が怒ると、朝陽がもっと笑い始めた。

「おまっ……すげぇ…ふっ…ははッ。」

そう言ってまた笑いだす。

「ねぇ…ちょっと……ふはっ」

おかしくってついつい私も笑ってしまった。


なんだかすごく久しぶりに楽しいと感じた。


しばらく二人で笑い合った後、朝陽が動いた。

「で、何食べる?ふっ……」

若干子馬鹿にされた感じがしたが、無視をしよう。

うん。

「何があるの?」

「ん~………」

特に何も考えてなかったのか、冷蔵庫と睨めっこをしている。

「うしっ。俺が作るか。向葵ってアレルギーとかある?」

「え~なんだろ。朝陽とかかなぁ」

「おいおい、ひでぇなw。アレルギー反応出てねぇだろ」

「あははっ。確かに。アレルギー特にないよ」

「最初からそう言えよな。」

それからしばらく無言が続き、朝陽が持ってきた朝ご飯は和食だった。

「………」

「お?嫌いなもんでもあったか?」

想像以上にすごいものが出てきてしまったのでなんだかものすごく申し訳なさが出てきた。

「えっと……?朝陽っていつもこんな感じ?」

「まぁ、基本的こんなだな。
俺、料理とか結構好きだし。」

マジ⁇すごいねぇ。尊敬する。

私が料理したら台所が爆発するんだけどな…。

「なんだぁ?とりあえず食おうぜ。腹減った」

「え、あ、うん」


『いただきまぁ~す』


「えっ…うんまぁぁ⁉ナニコレ!お店じゃん!」

「ははっ。そういってくれると嬉しいな。」

本当においしい。こんなの初めて食べた。

んまんま食べていると朝陽が言った。

「そういや向葵って何歳?」

「わふぁふぃ?(私?)」

思っていた以上に熱かったご飯を頬張りながらしゃべる。

「いやいや、飲み込んでから喋れよw」

食べている途中話しかけてきたのそっちなくせに、
正論を言われては何も返せない。

ご飯を冷まし、ごくりと飲み込んだ。

「16歳。」

「あ、じゃあ同い年か。見えねぇ…」

それはどっちの意味なんだろうか。

おばさんっぽく見えるのか、中学生くらいに見えるのか。

そんなことにごちゃごちゃいうのはめんどくさいので、簡潔に話す。

「それあんま誉め言葉じゃないからね」

「ごめんて。」

「まぁ謝る必要はないけど」

朝陽にとって多分悪気はなかったんだろう。
そういう奴だ。

「めっちゃ失礼かもしれんけど、向葵って家出少女?」

確かに失礼ではあるけど、朝陽に言われると嫌な気分はしない。

「ん~、まぁそんな感じ。」

「マジか!!お前凄いやつだな!何で家出したんだ⁉」

好奇心旺盛だな。

「お父さんが帰って来るから」

淡々と答えた。

「お父さん?向葵の家って、なんか…複雑なのか?」

「………まぁ」

私は曖昧に答えた。

というか、これだけかくまってもらっているんだし
全部話してしまおう。

「私が小さいときにお母さん病気で死んじゃったの。
その時くらいからかな。

お父さん、全くの別人に変わったみたいになっちゃったの。

毎日殴られるし、私たちずっとお父さんの機嫌を損ねないように生きてきたなぁ。」

あの頃は本当に嫌だった。

毎日死にたくて仕方なかった。

「そっか…つらかったんだな」

朝陽が言った。

同情なのはわかる。

けど、今はただその言葉が嬉しかった。

「あ、私三人兄弟なの。

上からお兄ちゃん、お姉ちゃん、そして私。

お父さんはね、私が6歳の時海外出張で出て行ったの。あの人、仕事だけはまじめにする人でさ。
まぁ、上にぐちぐち言われるのが好きじゃないから自分が上司になって指図したいんだろうけどさ。」

朝陽は一語一句話すたびに、「うん…うん…」と相槌を打ってくれている。

「お兄ちゃん…。お兄ちゃん優しくて好きだったんだ。

けど、実績とか将来とか、そういうところだけお父さんに似て、高校卒業した後東大の医学部に入るって言って出て行ったの。

すごいよね。

それだけはずっとぶれないで生きてきてたんだよ。

自分がみじめになるよ。」

朝陽は「そんなことないよ」と言ってくれた。

「お姉ちゃんはね、私とよく遊んでくれてたんだ。

正義感が強いんだよ。

私がお父さんに叩かれたときは必ずお姉ちゃんが守ってくれてたんだ。

だけどお姉ちゃんは、こんな日常を送った家に居たくなかったんだと思う。私が16歳の時、置手紙だけおいて出て行っちゃったの。」

「………置手紙なんて書いてあったんだ?」

置手紙があるなんておかしい、とか思ったんだろうな。

「置手紙にね
『ごめんね。お姉ちゃん疲れちゃった。
遠いところに行って疲れをいやしてくるね。
また会えたらうれしいよ。
向葵がいてくれて楽しかったよ。
ありがとう。
───ばいばい。』って。

あの頃私10歳で、お姉ちゃん東京とかとか、海外とか、遠出がしたかっただけかなって思ってた。

だけど、お姉ちゃんいつまで経っても帰ってこなくて。

それで、私が中学生なってからもう一回その手紙読んで。

やっと意味わかったの。

あぁ、お姉ちゃん死んじゃったんだなって。」

「もう、大丈夫。大丈夫だから。」

朝陽は私のことを強く抱きしめてくれた。

ずっと乾ききっていた私の頬は涙で濡れていた。

止まらなくずっと流れている。

私はきっとこのことを誰かに話して、思いっきり泣きたかったんだと思う。

「大丈夫。辛かったよな。」

そういう朝陽は目にいろんな感情が宿っていた。

悲しそうだったり

怒っていたそうだったり

苦しそうだったり

そして何より感じたのは辛そうな目をした朝日だった。

なんで?

どうして朝陽がつらそうなの?

そう聞きたかったけど、思うように声が出なかった。

「向葵はすごいよ。よく頑張ったんだな。」

そう言ってまた強く抱きしめてくれる朝陽。
いつもだったら、

なんで上から目線?とか、

お前が言うな、

とかで話をごまかしたりして平気を装えるのに、
今日だけはどうしてもできなかった。

「あの頃はね、もういいや。
とかしょうがないやとか思ってたんだ。
今はすごく悲しい。
もう一度お姉ちゃんに会いたい。
お兄ちゃんは頑張れば会えるかもしれないのに
………お姉ちゃんにはどうしても会えない。」

「まだ…死んだってわかんねぇだろ…?」


いや、分かるんだよ。だって私の村……


「自殺群(じさつむら)」


「────え?」

急に出てきた名前に驚いたんだろう。

朝陽がこれでもかっていうくらいに目を見開いている。

「自殺群。私の住んでいた村の別名。」

「…っは?んだよそれ。」

いまだによくわかっていない朝陽は驚きのあまり声がかすれている。

「私の村ね、自殺者多いんだ。
本当に自殺かは分かんないけど。

そんな観光名所無いのにね。

自殺者が群がるから自殺群。

多分お姉ちゃんそれで死んだんだよ」

「おかしいだろ。そんなの…あるわけ、」

そう言った朝陽がスマホを見て言葉を飲み込んだ。

なんだ?と思い、朝陽のスマホを除くと

私の村について書かれた掲示板があった。


…なに…これ。

私はそんなことを調べても出てこない。

私のスマホでは。

「なんだよこれ…なぁ!」

「しっ知らないよ!!
私そんなの調べても出てこないんだもん!!」

そういってスマホをいじり、朝陽にみせる。

「ほらっ!!」

「どういうことなんだ…?」

私のスマホを見てつぶやいた。

それから何度も検索をしても、ヒットしない。

朝陽のスマホと私のスマホ。

何がどう違って、どうなっているのか一つも分からない。

「もう………わかんないよ。なんなの…これ。」

「知るかよ…」

私たちは謎だらけの私の村の掲示板を気味悪く眺めていた。