「生きること」


クロキさんはわたしから身体を離すと、わたしの左手を手に取った。

そして、「まだ大事に持っていてくれたんですね。」と、わたしの左手首についているクロキさんから預かっていた時計を撫でた。

わたしは、それを外すとクロキさんに手渡した。

「クロキさんの大事な物ですからね。」

クロキさんは、時計を受け取ると「ありがとうございます。」と言い、大切そうに時計を眺めていた。

「クロキさん、聞きたいことがあるんですけど、良いですか?」
わたしがそう訊くと、クロキさんは顔を上げ「何ですか?」と言った。

「敬ちゃんは、無事にこの世界に戻って来れてるんでしょうか?ちゃんと生きて戻れてるのか、ずっと気になってて、、、」
わたしがそう訊くと、クロキさんは優しく微笑み「大丈夫ですよ。」と答えた。

「ちゃんと生きて戻って来れてます。ただ、あの場所に居たときの記憶は無くなっています。」
「それなら良かった、、、でも、記憶がないってことは、わたしのことも覚えて居ないってことですよね、、、。」

わたしが寂しそうに俯くと、クロキさんは再びわたしを優しく抱き締めた。

「くる実さんを守ってくれて、敬介さんには感謝しています。どこかで元気に暮らしてることを祈りましょう。」
「そうですね、、、」

わたしはクロキさんに抱き締められながら、敬ちゃんが元気に暮らしていることを願った。
そしてクロキさんは「これからは、僕がずっとくる実さんを守っていきます。」と言い、続けて「命が尽きるまで、一緒に生きていきましょうね。」と言ってくれた。

わたしは「はい。」と頷くと、クロキさんを見上げた。

そして、わたしたちは見つめ合うと、初めてそっと口づけあった。

そんな二人の姿を見守っていたのは、9本の薔薇たちだったのだ。




―END―