「クロキさんなら、くる実ちゃんを任せられる。施設育ちの俺には何も無いから、正直くる実ちゃんを幸せにしてあげられる自信はないんだ。」
敬ちゃんが悲しそうにそう言うので、わたしは「施設育ちとか関係ないよ?」と否定した。
わたしの言葉に首を横に振る敬ちゃんは、「俺には、何も無いから。情けないけど。」と言って、寂しそうに笑った。
「振られるのを覚悟でくる実ちゃんに自分の気持ちだけは伝えたかったんだ。好きな人には、幸せになって欲しいから、くる実ちゃんはクロキさんに譲るよ。」
敬ちゃんはヘヘッと笑うと、「譲るだなんて偉そうか!」と言って、ふざけたように笑い、そのあとで「手、握ってもいい?」と言った。
わたしが「どうぞ。」と言うと、敬ちゃんは「ありがとう。」と微笑み、わたしの両手を取って、ギュッと優しく握り締めた。
「温かい、、、」
敬ちゃんは目を閉じて、わたしの手をしばらく握り続けていた。
すると、微かにカサカサっという草が擦れる音がした。
一瞬にして緊張感が走る。
周りを見渡したが、誰の姿も見えない。
わたしたちが警戒していると、今までクロキさんと一緒のときしか揺れたことのない森の木々たちがそよそよと揺れ始めた。
そして「こっちに行きなさい。」とでも言うように、ある方向に向かって風が吹いたのだ。
「風がこっちだって教えてくれてる気がする。」
わたしがそう呟くと、敬ちゃんは不思議そうな表情を浮かべた。
「森はわたしたちを導いてくれてるんだよ。」
わたしの言葉に敬ちゃんは微笑むと、「くる実ちゃんがそう言うなら間違いないね。行こうか。」と言った。
そして、風が吹く方へ二人で走り出したのだった。



