「生きること」


クロダさんは落ち着いた様子で窓口を出たあと、アパートの外へと歩き出した。
わたしはクロダさんから離れないよう、震える身体を必死に抑え、クロダさんの後ろを歩いて行った。

外に出ると、余計にたくさんの人たちの乱暴な声や足音が響いて聞こえた。
そして、何人か数え切れない程の人たちがこっちに向かって走ってきているのが見えた。
よく見ると、その人たちの周りには黒いオーラのようなものがモヤモヤと漂っていたのだった。

「やれやれ。」

クロダさんは呆れたようにそう言うと、左手を上に上げ、パチンと指を鳴らした。

すると、一瞬にしてさっきまでの騒がしさが消え、住宅街に静けさが戻ったと思うと、数え切れない程いた人たちの姿も一瞬にして消えたのだ。

「凄っ!!!」

わたしの後ろから敬ちゃんの驚く声が聞こえた。

確かに凄い。
あんなにたくさんの人たちを一瞬にして消してしまったのだから。
正確には、現実世界に戻しただけだが、クロキさんがクロダさんを尊敬する理由が分かった気がした。

「今のうちに場所を移すよ。しっかり付いて来な。」
クロダさんはそう言うと、クロキさんから教えてもらった森がある方へ歩き出した。

わたしはクロダさんから離れないよう、周りをキョロキョロと見回しながら歩いてついて行った。