彼を初めて見たのはゼミの講義のとき。
まだ知り合いすらできてなかった大学のゼミの初回講義で座っている彼をみた。
教室に20人ほどの講義の中に彼はいた。
身長が高いな。静かそうな人だ。そう思いながら横を通り過ぎて席に着く。
まだコロナの頃だったから彼も私もマスクをしていた。
知り合いがいない講義はとても心細い。私が所属している経済学部には同じ高校の子は1人もいなかったし、男の子の数の方が多かった。憂鬱だ。そもそも人に話しかけることが苦手な私にとって、この教室で友達を作るなんて無理ゲーすぎる。
講義が進んでいく中で、先生が仲良くなるためだとか言って自己紹介が始まった。
何を話そう。趣味なんて呼んでいいのかわからないものばかりなのに。得意なこともないし、どうしようか。
そんなことで頭をいっぱいにして他の人の自己紹介を聞いていた。
「次の人は前出てください」
ああ、私の番だ。みんなの視線が私に集まる。前に出て声を出す。
「はじめまして」
声も膝も震えた。早く終われ。誰の視線とも合わせたくなくて、それでも前を向いて話しているとふと視線が交わった。
彼だった。
頭が真っ白になりそうで、すぐに視線は外して斜め上を向きながら自己紹介を終えた。
緊張であの後は何も覚えていなかった。
彼の自己紹介も。かろうじて名前だけは知った。同じゼミの人。
それが始まりの日。
