夜空に月光を。

ードンっ

鈍い音が響いた

ああ、やっと死ねた

そう、思ったのに、

もしほんとに死ねていたのなら、そんなことはそもそも思えるはずもなく

「はあ、はあ、っぶねえ、」

私は、誰かの腕の中で、まだ命の燈を燃やし続けていた

「おいっ!死にたいのかよ!」

声の主の方を見ると、肩で必死に息をして私の目を見つめていた

あぁ、死ねなかったんだ、

ただ私の心の中に喪失感だけが広がっていた

「っ、うい?」

私の微かな希望を簡単に打ち砕いてきた彼の口から言葉が発せられた

よく聞き取れなかったけど、聞き覚えのあるいちばん身近な名前を呼ばれたように感じる

……どうして、私の名前を、、

そう思って、記憶の中を探したけど、私の中に目の前で見つめてくる彼はいなかった

「えっと、誰です、、」

「俺だよ!すい!結城 翠!」

何かを訴えかけるかのように必死な様子で私に名前を投げかけてくる

結城 翠…聞いたこともなかった

「えっ、と」

私がわけもわからず、ポカンとしていると、彼は焦ったように頭の後ろを掻きながら言った

「あっ、ごめん、人違いだったわ
も、元カノのゆ、ゆいがさ、俺に振られた腹いせに……

って!死のうと、してたよな?!あんた」

うい、じゃなくて、ゆい、だったんだ

そんなことより次から次に言葉が出てきて、面白い人だなって思った

「そうだけど…」

「なんでだよ」

明らかに、怒っているのが伝わってくる

なぜかその怒りが伝染して、私の中にも何故かふつふつと怒りが湧き上がってくる感覚が分かった

なんでだよって、

…私がやろうとしたことを止めた彼にそんなことを聞かれる必要ある?

死んで何もかもから逃げて、楽になりたかったのに…

あなたのせいで、私の先には真っ黒な闇が再び広がった

私のことも私の人生も、何もかもこの人には関係ないし知る由もない

そんなこと聞かれて怒られる義理もない

なんなら…そのまま見逃して欲しかった、

なんで、はこっちのセリフだよ

なんで、なんで、助けたの…

「別にっ、別にあんたに関係ないでしょ!私が、生きようが死のうが、私の勝手でしょ!」

私は、彼に思うがままに言葉を投げつけた

彼からも何か言葉が返ってくると思っていたから

でも、彼は何も言わなかった

ふたりの間に沈黙が流れる

いくらなんでも、知らない、初対面の人に向かって言いすぎた、?

急に不安になって、彼の顔を見ると…すごく悲しそうな顔をしていた

な、なんで、あんたがそんな悲しそうな顔すんのよ、

「ちょっとついて来い」

彼はそう言うと、私の手首を掴んで立ち上がった

私も引っ張られて、立つ

わ、意外と背高いんだな…

私はそんなどうでもいいことを真っ暗闇の中、隣に並んだ彼を見て思う

「俺は、あんたに生きてて欲しいけど」

彼はそう言って歩き出した

もちろん手首を掴まれたままの私は、何が起こるのかもわからずに引きずられるように彼についていった