さようなら

「紗英が作ってくれたんだ…」


母の目が少し滲んでいるように

見えた。


私も自分の目が滲んでいるのが

分かった。






朝食の用意が出来た。


おばさんがみんなにおはぎを

取り分けた。


「それじゃあ、百合子が

一番最初に食べてみて」


「うん」


みんなが母に注目した。


私も緊張しながら母を見た。


母はゆっくりとおはぎを口に

運んだ。




「お、美味しい…」


母は驚いた表情をして言った。


「こんなに美味しいのは初めてよ」



みんなも続いておはぎを食べた。



「ほ、本当だ…


すごく美味しいわよ！」


みんな驚いた表情をしている。


そんなみんなの表情に私も驚いた。


みんなが驚きながら食べている中、

母は静かに一人で食べていた…


「お母さん、体調良くない？


無理して食べなくてもいいよ」


「ううん… 大丈夫よ。


紗英のおはぎを食べたら、

昔の思い出が蘇ってきたの。


私たちはずっと、このおはぎと共に

歩いてきたんだなって…」


みんな話しを止め、母の話しに

集中していた。


「お父さんと結婚を

約束した時からかな…」


母は嬉しそうな顔をした。


「お父さんとお花見に行ったのよ。


その時にお弁当とおはぎを

作っていったの。


おはぎを食べたお父さんは

面白かったわ。


おはぎを食べた途端、

上手い！って大声で叫ぶの。


上手い！だけならまだいいんだけど

お父さん、いきなり

結婚してくれって言うのよ。


しかも、それも大声でね。


私はア然としてしまったわ。


ア然としてしまって、

何も答えられなかったの。


そしたら何度も何度も、

大声で結婚してくれって言うのよ。


周りには沢山のお花見客がいたから

すごく恥ずかしかったわ。