さようなら

『カラン カラン…』


「いらっしゃい」


店の中へ入り、

マスターと目が合った。


マスターは何かを察したのか

初めて来たお客さんと

接するような話し方をした。


「いらっしゃいませ。

お二人でしょうか?」


「はい…」


「どうぞこちらへ」


窓際の席に案内された。


マスターが水を持ってきた。


「ご注文は何になさいますか」


「私はブレンドを」


先に紗江のお父さんが答えた。


「同じで…」


僕も答えた。


「急にお邪魔してしまい、

本当にすみませんでした」

紗江のお父さんが話し出した。


「いえ…」


「デザイナーのお仕事は

順調ですか?

今度、アシスタントから

デザイナーになるそうで。

紗江から聞きました」


「あ、はい…

デザイナーと言っても

自分のブランドを

作れた分けではありませんので…

まだまだです…」


「いやいや…

まだ若いから、これからですよ」


「はい…」


コーヒーが運ばれてきた。


紗江のお父さんはそのまま飲んだ。


僕はミルクと砂糖を入れた。


暫く無言でコーヒーを飲んだ。


そしてお父さんがまた話し始めた。


「あの…

一年前の事ですが、

本当にすみませんでした…」


僕は何も返事をしなかった。


「私は… 本当は…

敬太君と紗江の結婚が

反対な分けではないんです…

なんとなく紗江から

聞いているとは思いますが、

今、会社の経営がかなり

苦しいんです…」


僕は一口、コーヒーを飲んだ。


「会社の経営が

苦しくなり始めたのは

一年くらい前からです。

敬太君が挨拶に来てくれた時、

いろんな事で私は

追い詰められていました。

それであんな言い方に

なってしまいました…」