さようなら

「そうだったね。

あの時はかなり寒かったな」


「今度は最初からたくさん

着込んできなよね」


「そうするよ。

でも折角だから、

トレーナーも買おうかな」


「うん。私にも何か買って！」


「おう！もちろんだ！」

「やった～」



僕らは繋いでいる手を

大きく振りながら歩いた。


僕は紗江の横顔を見た。

暗くて良く分からなかったが、

紗江の目が少し

光っていたように見えた。


「送ってくれてありがとう」


「うん。遅くなっちゃったね」


「大丈夫だよ。

敬太と一緒なら、

お父さんも何も言わないから」


「そう…」


「それじゃあ、家に着いたら

メールしてね」


「ああ、メールするね」

僕はいつものように、

一人帰り道を寂しく歩いた。


僕の右手には紗江の温もりが

優しく残っていた。




次の日、仕事が終わる直前に

ある日が僕を訪ねてきた。


「永井さん、お客さんが

見えてますけど」


「お客さん？

メーカーと会う約束なんか

してないしな…」


僕は会社のビルの玄関へ行った。


そこに居たのは紗江の

父親だった。


紗江の父親は僕の顔を見て、

深く頭を下げた。


「こんばんは…

お久しぶりです…」


僕は恐る恐る挨拶をした。


「こんばんは。

紗江の父親です。

仕事中に、しかも夜にすみません。

もしお時間があれば

お話しをしたいのですが…」


初めて会った時と

かなり印象が違った。


「あ、はい…

あと少しで仕事が終わるので

それからでもよろしければ…」


「構いません。

私は外で待っています。

私はもう今日の仕事は

終わりましたので、

ゆっくりで結構ですので」


「あ、はい…

それじゃあ、少しだけ

待っていてください」


僕は急いで仕事を片付けた。


そして紗江のお父さんと

マスターの店へ行った。