さようなら

「ねぇ、そろそろ夕食にしない?」


「うん、そうしよう」


僕らは初めてのデートで来た

レストランに入った。


「いらっしゃいませ。

お二人様ですか?」


男性の店員さんが迎えてくれた。


「はい。

あの… 窓際の席に

してもらいたいんですけど

いいですか?」


僕は窓際の席を頼んだ。

「はい、かしこまりました」


僕らは席へ案内された。

「ねぇ、なんで窓際にしたの?」


「夜景が綺麗でしょ。

今の季節だとクリスマスの

飾りもされてるし。

それと、初めてのデートで

来た時も、窓際だったからさ」


紗江は笑った。


僕らは楽しく食事をした。


しかし、食事の後の

紅茶を飲んでいる時、

紗江が真面目な表情で話し出した。


「ねぇ、敬太…」


「ん? なんだい?」


「あのね、昨日、

お父さんにお願いされたの…」


何をお願いされたかは

大体予想がついた。


「お見合いだね…」


紗江は無言で頷いた。


「仕方ないよ…

お父さんは何千人という

社員とその家族を

守らなきゃいけないんだから…」


「会うだけだから…

お父さんもそれだけでいいって…」


「ああ… 分かってるよ…

お見合いはいつ?」


「来週の火曜日…」


「ディズニーに行く前の日か…」


「うん…」



僕は紗江を送った。


いつもはタクシーだが、

今日は駅から手を繋いで歩いた。


「温暖化と言われてるけど、

やっぱり12月は寒いな」

こんな寒い日だからこそ、

紗江の手の温もりを

強く感じ。


「うん…

風邪引かないようにしてね」


「ああ… 紗江もな。

こりゃディズニーは

厚着して行かないとな」


「そうだね…

初めて行った時も

クリスマスだったんだよね…」


「そうだね」


「敬太、薄着で来ちゃって、

トレーナー買って着込んでたよね」