不敵にdanger


 一体全体、どんな状況?

 うん、そうだ、一旦整理しよう。

 ここは日本トップクラスの大金持ちが集まると噂の名門、私立聖柳学園(せいりゅうがくえん)高校。(とは言いつつ、それはひと学年ひとクラスのみ配置される特待クラスの人間だけで、一般クラスには私のような庶民も勿論いる)

 第一志望の都内最難関偏差値を誇る私立高校に落ちた私は、泣く泣く第二志望であったこの聖柳学園にトップの成績で入学し、今日がその入学式だったというわけで。(そう、入試1位の生徒が毎年入学式で新入生代表挨拶をするというわけだ)

 そんな大事な入学式を、舞台上ですっ転んで台無しにしてしまった。しかも、あろうことか、あの藤沢睦先輩の作品をぶち撒けるという大失態。 

 そう────藤沢 睦 先輩。

 今日ここへ入学した私でも知っている。恐らくこの学園内で1番の有名人。

 そっと藤沢先輩を見る。肩まで伸びる長髪はサラサラで、カーキがかったグリーンの髪色が特徴的だ。切れ長で二重の綺麗な瞳と高い鼻、高い身長の割に小さな顔は骨格からして勝ち組で、さながら芸能人のよう。左目下の泣き黒子が色っぽさも兼ね備えさせていて。……もしかしたら私より顔が小さいかも。

 そんな容姿端麗な藤沢先輩が有名な理由は、見た目だけじゃない。

 ────藤沢家。それは日本人なら誰もが知っている華道の一流名家。そして藤沢睦先輩は、そんな藤沢家の長男、即ち跡取り息子の御曹司なのである。

 しかも。
 華道茶道の作法が一流なのは勿論のこと。国内模試上位常連、陸上インターハイ出場経験有、全国ピアノコンクール優秀賞受賞、話せる言語は5カ国以上、その他習字に絵画に読者モデルまで、何をやらせても人より秀でてしまう、所謂”天才”なのである。

 容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能、芸術さえもお手のもの。

 そんな漫画から出てきたような藤沢先輩のことを知らない人なんて、きっとこの学校(もっといえば、国内の同年代)にはいないだろう。しかも、名家の跡取り息子が生ける生花(いけばな)は、買おうと思えばうん十万の値段がつくとかつかないとか。

 そんな藤沢先輩がこの日のために生けた大事な大事な生花を、一瞬にして粉々にした。それがどれだけ重大な失態か、そろそろお分かりいただけただろうか!