「そういえば、先輩」
「うん?」
「ちゃんと大丈夫、でしたか」
きっと「なんのこと?」と、とぼけられるんだろうなと思ったけれど、先輩は意外にも真面目な顔で私を見つめ返した。
「……うん。ちゃんと大丈夫だったよ」
「ほんとうに?」
「うん。本当の本当に。……キミのおかげだね、ありがとう」
「そっか……よかった、私なんかでも役に立てたなら。……まあ、ただ見てただけなんですけどね」
「足痺れたのにも気づかないくらい真剣に向き合ってくれる子なんてこの世でキミくらいだから、もっと誇っていいよ」
「うう、それって褒めてますか……?」
「当然。褒めてるよ」
ストレートに言われると照れてどうしていいかわからなくなる。
だって今まで、勉強以外で褒められたことないんだもん。
その勉強も、私にとってはあの家にいるための手段でしかないから……。
先輩の言葉に、少しだけ救われた気がした。
「ありがとう……ございます」
「顔赤くして素直に喜んじゃうのかわい……」
「……へ? なんか言いましたか? ていうか藤沢先輩、近いのでは……」
「うん言ったよ。そんな可愛い顔もできんだね。いっそ閉じ込めておきたいくらい」
「?!?!?!」
もちろんからかわれているだけなのはわかるけど、恋愛初心者には酷なほど刺激が強い。
先輩こわい。
「うん。じゃあそういうことで、北森さん」
どきどきを必死に抑え込んでいると、先輩が、明るくにこっと笑った。
目の奥が笑ってない、なんてこともなく。だけど明るすぎて逆にこわい。何か企んでいるのでは。
どうやらこの嫌な予感……
「この勢いで明後日の結婚式の付き添いもよろしくね」
────当たってしまったようです。



