「麗子さん」


「うん」


「知ってます?今日でちょうど2年」


「あら。もうそんなに経つのね」


「今月で、"コジツケ誕生石の旅"も終わりやと思うと……ちょと寂しいっすね」


「なんだかんだ、充実していたわ」


「ほんま。めっっちゃ楽しかった。
次、何にします?」


「…………次?」


「誕生花を巡る、"ヘリクツ花言葉の旅"?
あ、星座もありますよね。
"ムリヤリ星言葉の旅"とかは?」


「……成長ないわね」


「ええんです。いつまでも変わらない俺。
目指せピーター・パン」


「付き合い切れないわよ。流石に」


「えぇ……ウェンディ……」


「……そんなことより。
最後は結局、ここなのね」


「そう。なんやかんや、うちの店が一番落ち着くかなって」


「否定できないわ」


「さて。ラストカクテルはコレです。
結構すぐ決まったんすよ」


「綺麗な白……少し濁ってて、逆に。お名前は?」


「"ホワイト・リリー"。白百合、ですよ。
"ダイヤモンド"の『純潔』に、これ以上ないくらいピッタリでしょ」


「……勝手に手をかけ始めているじゃない。花言葉」


「いやー、図らずも"ゴリオシ花言葉の旅"の先駆けですね」


「"ヘリクツ"やなかったん。……あ」


「あ」


「…………」


「久しぶり。いや、おかえり?麗子さん。
やっぱ無理してたんでしょ」


「……もう、好きに言えばいいわ」


「あ、戻ってもた」


「いただきます」
 

「それ、結構度数ありますよ。
ゆっくりいってくださいね」


「そうね。うっかり滑り出ると困るものね、色々と」


「え。そんなら、もうちょい足しましょか。アルコール」


「残念だわ。ここへ来るのも、今日限りになりそう」


「えぇ!?い、いやいや。もちろん冗談ですよ?
だからそんなん言わんといて」


「ふふ」


「……ずっと言おうか迷ってたんですけど。
麗子さん、よう笑ってくれるようになりましたよね」


「……そう?」


「そうっすよ。だって最初の1年間、見たことなかったですもん。笑顔なんて」


「気が緩みすぎてしまったようね」


「いやー。嬉しいのと、
可愛いから俺以外には見せんといてって気持ちが半々」


「……君は随分、あっけらかんになったね」


「そりゃね。最初は遠慮してたんすよ。
麗子さんの未練、十分わかってたし。
わー。なんかもう、懐かしいな」


「……『恋人とはどう?』」


「うっわ。それも懐かしっ。
定期的に聞かれましたよね。絶対わかってんのに」


「知りたかったの。君の目が、覚めているかどうか」


「最初からずっと覚めてんすよ、こっちは」


「……あの頃あんなに(こだわ)っていたことも、思い出せなくなるものね。
『女は上書き保存』……少しオーバーな気はするけど、的を得ていると思うわ」


「俺は、今でもたまに思い出しますよ。
唐突に『結婚する』とだけ聞かされた時に受けた、衝撃と絶望感。
結局、どっちが悪いニュースやったんですか」


「忘れたわ」


「頑なに教えてくれんの、なんでなん」


「いいじゃない。過去のことよ。
君、言ったでしょ。『人の心は移ろう』って」


「うーん。それ、自分で言うといてなんやけど……
勿論、移ろわない時もある!!」


「…………」


「……そんな冷めた目で見んでもええやん。
やって、現に俺の気持ちはあの時から変わってな……
いや。もっと強まったから、やっぱ変わってんかな?」


「……それは素晴らしいことね」


「麗子さんは?
……はじめて笑ってくれたあの日から、お変わりなく?」


「そうね…………」


「………………」


「たしかに…………変わった、わね」


「ど……どんな風に……?」


「『期待』が、なくなったわ」


「え…………それ、どういう……
し、失望した……ってこと……?」


「………………」


「…………え。無言、コワイ」


「やっぱり、やめようかな」


「……えぇ!?
いやいや、それほんま犯罪級やから!!
最後まで言うてください」


「……上手く言えないわよ、私」


「そんなん分かりきってますよ。
2年も一緒におるんやもん。
とゆか、どんなこと言われても今よりマシやわ」


「そう…………」


「うん」


「だから……期待、が変わって…………」


「う、うん……」


「…………確信…………いえ、願望?」


「えーっと…………つまり?」


「つまり…………」


「………………」



「私は、瞬のそばに居たいってこと」



「……………………え?」


「……わかった?」


「え。ちょっ、待って……追いつかんねんけど。
…………どっからそうなったんですか」


「だから言ったじゃない。上手くないって」


「いやいや。そういう次元とちゃいますよ。
明らか飛んでるもん、話」


「私の中では繋がってるの」


「えぇ…………。
……それが麗子さんの精一杯ってこと?
これは、思った以上に…………」


「…………何よ、その満面の笑み」


「ヘタやなぁ」


「…………やっぱり、言うんじゃなかった」


「はは。だって………………
あー……幸せって、こういうことなん?
なんかもう、嬉しいとか通り越してさあ…………」


「何」


「しにそう」


「それは……………………困るけど」


「俺さ、諦め悪くて良かった。
麗子さんを好きになって、ほんまに良かったです」


「……ありがとう」


「麗子さん」


「はい」


「耳についたスピネルも、
首にかかったペリドットも、勿論似合ってるけど。
絶対、それ以上に似合うと思うから……」


「………………」


「指には、これつけてほしい。
しばらくの間、ね」


「……………………なんでピッタリなの。
サイズ、教えてないのに」


「あぁ、それは聞かんほうがいいですよ」


「……ダイヤよ?失敗とか、怖くないの?」


「え、そんなん考えてませんでした。
まあ……もし失敗しても、
もう一度、何度でも言いますよ」


「………………」


「俺と、結婚してくれますか?」


「……………………喜んで」


「あ。麗子さん、顔赤い」


「……そう?
やっぱり、少し強かったみたいね。アルコール」


「そういうことにしときます」


「…………」


「俺……麗子さんと出会ってなかったら、
一生こんなシーン迎えてなかったと思う」


「もう。大袈裟なのよ、いつも」


「だって、ほんまのことなんやもん」


「瞬、」
「麗子さん、」



「幸せをくれて、ありがとう」
「幸せをくれて、ありがとう」



「…………同時」


「はは。ちょっとだけ似てきてるよね、俺ら」


「ほんと……いつの間にこんな、毒されていたのかしら」


「まだまだ足りんっすよ。もっと蝕んであげますわ」


「大丈夫。その前に逃げるから」


「え。絶対ダメです。それは。
ところで……無事、埋まりました?空いてた宝箱」


「おかげさまで。蓋が閉まらないくらいには」


「よかった。
さて、次は花瓶かぁ。366本分必要ですよ」


「……もう、あきないんやけど」



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