君が嘘に消えてしまう前に


無責任に、勝手なことを言わないでほしい。私の親が、こんなので褒めるわけないのに。


この人は、一体私の両親の何を知っているというのだろう。


たしかに、普通の家の子ならこの成績を見せたら褒められるのかもしれないけど、うちは違う。
優秀なお姉ちゃんばかりを見てきたあの人たちが、私なんかのこんな成績で満足するわけがない。

改めてテストの結果に視線を滑らせる。
学年総合順位には、無情にも七位と書かれていた。

――この学校だけで、私より上が六人もいる。

他の人みたいに、進学校だから仕方ない、と割り切れたらよかった。
でも私にはそうできない。
どうしたって他人と比べてしまう。

人と比べて生きるのは、しんどい。

そんなことくらい私だって分かってる。
どれだけ他人と比べて、努力して、上に立っても、見上げれば自分より優れた人があふれていた。その度に息がつまる思いになる。

でも私はこうしないと生きられないんだから、仕方ないじゃない。
他人と比べることでしか自分の価値を見出せないんだから、どうしようもないじゃない。

足りない、まだ、全然足りてない。
こんなんじゃだめ、こんなんじゃ私に価値なんてない。

あがいても、もがいても、手が届かない。
私の価値は、こんな成績じゃ保証されない。


「…いえ、まだまだです…。上には上がいるので」

必死に絞り出した声は、心なしか震えていた。
もういやだ、これ以上ここにいたくない。

担任がはぁ、と大きなため息をついた。


「篠宮、お前はなぁ他人と比べすぎなんだよ。もうちょっと自分を認めてやったらどうだ」


うるさい、もうだまってよ。
いったい私の何が分かるっていうの。
クラスの四十人のうちの一人としてしか見てないくせに、知ったような口をきかないで。


「…はぁ、そうですね」

何とか怒りを飲み込んで、感情のない言葉を返す。なんで担任はこんなに察しが悪いんだろうか。どうして目の前の私の感情に気付けないの。


自分のことを認めるなんて、そんなのできるならやってる。
どうやったら自分をそのまま認められるか分からないから、他人と比べてるんじゃない。

もう、全部を吐き出してしまいそうだった。
荒れ狂う心を必死になだめ抑える。

「あー…じゃあこうしよう、今日から他人と比べるのは禁止だ。いいな?」

「…は」

担任の言葉に思わず耳を疑った。

そんなのは向上心のない人間の言い訳だ。
自分らしくあればそれでいい、なんて。逃げだ、妄言だ。


なんで点数で私たちのことを測っておきながら、他人と比較するのはダメ、なんて傲慢なことが言えるのか意味が分からない。
テストだって、見られるのは努力や過程じゃない。点数として出てくる結果だけ。


努力したことに価値がある、なんて出来ない人の言い訳でしかない。努力したって、報われなければなんの意味もない。

他人と比べずに生きていけるわけないのに、上っ面だけいいこと言わないでほしい。

「自分は自分だから」と言い訳した先にあるのは、堕落だけだ。
私は、そうはなりたくない。


「おい篠宮、聞いてるか?俺はお前のためを思って言ってるんだよ」

私のことなんて、考えてないくせに、と思う。

おわれ、はやく、おわれ。
心の中で唱えながら、爪が刺さるくらい強く拳を握りしめる。手のひらが痛くて痛くて、でも本当に痛かったのは胸の奥の方だった。

もういやだ。
何でこんなこと言われなきゃいけないの。

「…はい、ありがとうございます」

もう一秒でも早くこの空間から逃げ出したかった。キリキリと胃のあたりが痛む。
気持ち悪い、いやだ、消えたい。

そのあと、どうやって担任との面談を終わらせたのかはあまり覚えていない。