扉から一歩入ったところで立ち尽くす私の前に、石田さんとその友達たちがゆっくりと近づいてくる。
勝手に体が強張って、わたしはその場に縫い付けられたみたいに動けなくなる。
ぽろぽろと涙を流す石田さんとその左右できっ、と私をにらみつける石田さんの友達たち。
クラスみんなが見守る中で、わたしが悪者だっていう構図が既に完成している。
「ねー篠宮さん、咲良になんか言うことあるんじゃないの?」
石田さんの隣に立っている酒井さんが低い声で問いかけてくる。
顔だけはにこっと笑っているけど、目が据わっている。
(返答を、間違えちゃいけない)
でも、わたしが石田さんに言うべきことって、なに?
昨日の伴奏のオーディションが関係していることはわかるけど、求められている言葉が、分からない。
『私が勝っちゃってごめんね。石田さんの演奏もうまかったよ。』
だめ、そんなの言っていいわけがない。
謝罪もお世辞も、きっと求められていない。
周囲を見回すけれど、誰も助けてはくれない。誰もが私からすっと視線を逸らす。
――ガンッ
急にした物音にびくりと体が震える。
何も言わない私にしびれを切らして、酒井さんが手近にあった椅子を蹴った音だった。
(何か、言わなきゃ)
「…えっと、昨日はあの後大丈夫だった…?」
必死で絞り出した言葉に、教室中が静まり返った。
どくどくと自分の心臓の音だけが嫌に響き、背中を冷たい汗が伝う。
「うわ、よく聞けるよねそんなこと」
酒井さんの冷ややかな声。とげのある言葉。
上から水をかぶせられたみたいに、全身から血の気が引いていく。
――間違えた。間違えてしまった。
「傷つけた張本人がよく言うよ、一体どういう神経してたらそんな風に聞けるわけ?」
「咲良から聞いたけど、あんた咲良の演奏鼻で笑ったんだって?いくら自分がうまいからって、人の演奏侮辱するとか最低でしょ」
酒井さんの一言を皮切りに、次々と石田さんの周りにいる子たちから鋭い言葉が飛んでくる。
身に覚えのない言葉に、頭がうまく回らない。
…何、言ってるの?
私が、石田さんを傷つけた…?
「え…ちがっ、私そんなことしてない!」
「ひどい…、そうやって私のことずっと見下してたんでしょ。人のこと馬鹿にしてるのが丸わかりなんだよ!」
私の弁明の言葉は、いとも簡単に石田さんの涙交じりの声にかき消された。
違う、わたしは周りのことなんて見下してないし、馬鹿にしてもない。石田さんの演奏を笑ってもない。
――誰か、信じてよ。
そう思って周りを見渡しても、すでに周囲には石田さんに同情する人か、面倒くさそうにこの状況を傍観する人しかいない。
...佐那以外の周りの人全員が、敵だった。

