君が嘘に消えてしまう前に



放課後に音楽室に呼び出しを受けて、担任の先生と音楽の先生の立会いのもと伴奏者を決めるオーディションは行われた。


じゃんけんの結果、私が先行、石田さんが後行に決まった。



何度も視線で追ってきた譜面を立てかけ、初めの和音の位置に両手を添える。


緊張を吐き出すように、軽く深呼吸をし――次の瞬間には鍵盤上に指を滑らせる。


弾きなれた和音が奏でられていく。

一度弾き始めてしまえば、もう緊張を気にする暇はなかった。

そのまま大きなミスも、テンポが落ちることもなく最後の和音まで演奏しきって、鍵盤上から視線を上げた。

痛いほどの静寂の中、椅子を引きピアノから離れる。

わたしが待機用の席に戻るのと同時に、今度は石田さんが席を立った。



「…うますぎでしょ、こんなんわたしが恥さらしなだけじゃん」


冗談交じりに笑って石田さんはそういったけど、その表情はどことなく固い。


彼女はぎこちない動きでピアノの椅子に腰かけ、ゆっくりと伴奏を奏で始めた。


実際のテンポよりも数段遅く、ところどころ止まったり弾き間違えたりを繰り返す演奏。


徐々に聞こえてきた鼻をすする音、涙がこぼれないようにと力の入った目元と引き結んだ唇。

半泣きになりながらも演奏を続ける石田さんの様子を私は息をのんで見守った。

私も、担任の先生も、音楽の先生も何も言えないまま、静まり返った音楽室に石田さんのぼろぼろの演奏だけが響いていた。

それから少しして、とうとう彼女の演奏が止まって、代わりにさっきより数段ひどく涙を流し始めた。

どうしていいのかわからなかった。


「...篠宮さんはもう先に帰りなさい」


未だしゃくり上げている石田さんの様子に立ち尽くす私に、音楽の先生がそう言った。

私はその言葉に黙ってうなずいて、泣き声のする音楽室を後にした。