君が嘘に消えてしまう前に


そうやってなんとか音楽の授業を耐え切って、行きと同じように一人で教室に戻った後。


「…ない」


三冊あるはずの教科書が、二冊しかない。
薄い教科書だし、たぶん音楽室の机の中に入れたまま存在を忘れてしまったのだろう。


掃除を終わらせたら、取りにいかなきゃ。


私の班の掃除の割り当ては教室だから、まだ雑談中の班員を横目に人がいないところから手早く机を後ろに下げていく。


しゃべってないで手伝ってほしい、なんて当然言えない。
残念ながら、教室の隅で息を殺しているような存在に彼らの話を遮る権利なんてないのだ。


それにこの程度はきっと、いじめ、ではない。
彼ら彼女らに明確な悪意はない、ただ気づいていないだけ。


部活に直行せず、まだ机周りで荷物の整理や雑談をしていたクラスメートたちが一人掃除を進める私を見かねて一緒に机を引いてくれる。


このクラスは、一人ぼっちに対してもそれなりに優しい。
こんなひねくれていて愛想もない私でも、クラスメートとして無視せず適度に接してくれる。


それが、表情に出ないながらもありがたかった。


気を利かせて手伝ってくれるクラスメートたちに曖昧な会釈をしながら、箒でゴミを集めていく。

そうして早々と掃除と掃除を終わらせて、私は北校舎の端にある音楽室に向かった。