「着きましたー。乗ってください。」

和真に促され、車に乗る。
もう何度も乗せてもらっているが、やはり緊張する。
以前のような警戒心による緊張というより、和真を近くに感じる恥ずかしさのようなものが大きい。

和真はいつも薬持ってていいよと声をかけてくれる。
蘭にはそれがありがたい。
自ら薬を手に持つのは申し訳なさを感じる。
あなたに襲われる可能性があると思っていますと言っているようなものだ。
和真が襲うような人間じゃないことは頭では分かってる。ただ、今までの経験からなかなか恐怖心をぬぐえない。

薬を手に持ったのを確認してから、和真は車を動かした。
蘭は申し訳なさ、恥ずかしさからなんと話せば良いかわからない。
自分のコミュニケーションスキルのなさを恨む。

「大黒さんはあまり飲まないって言ってましたけど、飲みに行くなら普段はどういったところ行くんですか?」

気まずさなんて全くないかのように、いつも和真から話しかけてくれる。

「飲みにどこかへ行くのはあまりないです。
友達の家か自分の家で飲むことが多いです。」

飲みに行く友達といっても陽菜しかいない。外で飲んでヒートになったことがあり、それ以降飲むときは家で飲む方が安心できる。
陽菜はお酒も強く、家まで介抱してくれたので、大事には至らなかったが、苦い思い出だ。
今日も本来なら飲みたくなかったが、断ったりすることが苦手になってしまった蘭は勢いで飲んでしまった。
ただ飲んだことで楽しめたし、体調も崩さなかったので、飲んでよかったなと思う。

「宅飲みいいですよね〜!家だとゆっくり飲めるし、飲みすぎてもすぐ寝れるし。」

和真はふっと微笑む。

「谷本さんはどんなお酒が好きなんですか?」

「うーん。基本なんでも飲めるけど、やっぱりビールですかね!仕事終わりのビールは最高です笑」

和真が楽しそうに話す。和真の表情から本当にお酒が好きなんだなと伝わる。

「大黒さんは?どんなの飲むんですか?」

「私は、チューハイが多いです。
レモンサワーが1番好きで・・・・・・・・・・・」





蘭は体中から一気に火照りを感じて言葉につまる。
やばい・・・
ヒートが来た・・・


「ヒートですよね。薬飲めますか?」

和真は角を周り、人気の少ない所に車を停車させる。ペットボトルの蓋を開けて、蘭に渡す。

「す・・・みま・・・」

「無理して話さないでください。しんどいのはわかってるんで。
今からお母さんに連絡しますね。俺にはちょっとこの空間しんどいので、外にいます。何かあったら声かけてください。」

和真はそう言って、車から出て、蘭の母に電話をかける。
車である程度来ていたので、蘭の家まで歩いて10分ほどの距離だ。
和真は女性のタクシードライバーを呼ぶ。
蘭の母が来てからスムーズに家に帰れるようにしておいた方が良いだろう。